#11 跡部、王様になる!?
間抜けな盗賊達を不覚にも取り逃がしてしまったのだが、それでも当初の 頼まれ事である金の冠は取り返した。 それだけでも大丈夫だろうと、一行はそれを手に来た道を再び戻ってロマリアまで 帰ってきた。 早速そのモノを国王に届けたところ、彼はすこぶる上機嫌であった。 「よくぞ冠を取り返してくれたな、礼を言う!」 「いえ…」 やはり上からの言葉は礼を言う時ですらどこかしら尊大な雰囲気が抜けきれて いなくて、なかなか素直に受け取ることが難しい。 王の前で膝をつきながらも、聞こえないように宍戸が「なんだよえらっそーに」と 呟いているのを、隣に居る滝が肘打ちをかまして黙らせた。 これでお役御免に加え、ロマリア国王に恩を売れたのは正直好ましいことだ。 当然、何かあった時に頼れる…というのが、そもそもの跡部が依頼を受けた 理由でもあるので、問題は無い。 今は特に困ったことがあるでもないし、とにかく今は旅の先へと進むだけだ。 だが、国王の言葉はそこに居た誰もの予想を大きく外れたものだった。 「どうじゃ?儂に代わってこの国を治めてみる気はないか?」 その言葉には、さすがの跡部も目を瞠って即答できずにいた。 目の前の初老の王は、他意はないらしくだたニコニコと跡部を見ている。 「それは……どういう意味でしょう?」 「意味も何も、そのままじゃよ。儂はお前さんが気に入ってな。 お前さんならきっと、良い国にしてくれそうじゃ」 「…………。」 口を噤んで何かを考えるように床に視線を落とした跡部に、不安になったのは 仲間達の方だ。 「ちょっと……跡部?キミまさか……」 「おい!なんで断んねーんだよ!!」 滝と宍戸がそう声を上げるのを跡部が片手を上げる事で制する。 そして改めて跡部は国王へと向き直った。 「一晩、考えさせて頂けますか。 とりあえず今日はもう日暮れですし、明日改めてお伺いします」 「おお、おお、それでも構わんよ。 良い返事を期待しておるぞ」 手元に戻ってきた金の冠を自分の頭部に飾りながら、やはり笑んだままで 国王は頷いた。 城から宿へ向かう道を歩みながら、宍戸が跡部に食って掛かっていた。 「おい跡部!何考えてんだよ、テメー!!」 「……てめぇの少ない脳みそじゃあ、到底考えも及ばねぇ事だ」 「な、何だとッ!?大体テメーは……!!」 顔を真っ赤にして怒鳴る宍戸を軽くあしらいながら、宿で部屋を2つ取ると、 鍵をひとつ忍足に向かって放り投げた。 「え?なん??」 「お前、今日はこのうるせぇのを連れて行け」 「………迷惑や。 俺は静かなんが好きやねん」 「うわー、跡部も忍足もそれ宍戸に失礼だよ」 「アーン?宍戸だから構わねぇよ」 「どういう意味だよ!!」 ぎゃあぎゃあと喚きたてる宍戸を放置して、跡部はもうひとつの鍵を手に 滝の腕を引っ張った。 「今日はお前が来い」 「別に良いけど…」 「少し話がある」 「………ああ、解った」 そうでなければ自主的に跡部が忍足以外の相手を同室に選ぶ事はしないだろう。 話は恐らくは先刻の城での事なのだろうと簡単に想像がついて滝は頷いた。 部屋に入っていった2人を見送って、仕方無しに吐息を零しながら忍足が 宍戸の肩を叩いた。 「しゃあないな。 今日は引き下がろうや、宍戸?」 「……なぁ、忍足」 「うん?」 宍戸を促して部屋に入れると、後から入った忍足がドアを閉めて振り返る。 いつもの跡部に負けないほどの勝ち気な姿を見せていた宍戸が、珍しくも不安げに 眉を寄せている。 「跡部……行っちまうと思うか?」 「さぁ、それは付き合いの長いお前らの方がよぉ知っとるやろ」 「それは、そうかもしれねーけどよ……」 語尾を濁して宍戸が俯くのを苦笑しながら見遣り、忍足は荷物を部屋の片隅に置くと、 自分はベッドに転がった。 「まぁ…なるようにしか、ならへんやろ」 「忍足……」 「言われたのは跡部やし、どうするか決めるんも跡部や」 「お前はそれで良いのかよ」 そう言われるとちょっと痛いな、そう思い困ったように笑みを見せて、忍足が 吐息と共に言葉を吐き出した。 「俺は、跡部に全部任せるわ」 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 隣の部屋で、滝は跡部の考えを聞いた。 話す相手に滝を選んだのは、冷静さと思考の柔軟さを兼ね備えた相手、そう考えて 彼しか残らなかったからだ。 宍戸はどう考えても冷静さに欠けているし、忍足には少し柔軟さが足りない。 だが、聞かされた滝自身も困惑したため息を零すしかなかっただけだった。 「……本当にやるんだ」 「俺しかいねぇんだろ?だったらなってやるさ」 「宍戸が怒るよ?」 「んなもん、どうとでもなるだろうよ」 「……忍足は?」 「さぁな……正直、よく解らねぇ。 だが、チャンスは今しかねぇんだ」 「そうか…跡部が決めてるなら、俺は止めないよ」 「助かる」 滝の言葉に、やや切なげな笑みを浮かべて跡部が答えた。 「一足早いけど、国王就任おめでとうって言ってあげるべき、かな?」 「悪いな、滝。 お前には面倒かけちまうが……後の事は任せたぜ」 そう言う跡部に、滝がテーブルの上に頬杖をついて。 「任されても、ぜんっぜん嬉しくないよ」 そう、嘆いたのだった。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 翌日、再び一行は国王の前に訪れた。 「どうじゃ?良い返事は聞けそうか?」 「そうですね…とても良いお話かと思いますが、」 「そうかそうか!!」 口元に笑みを乗せながら言う跡部に、国王の機嫌も更に上昇する。 逆に急降下したのは宍戸だ。 「ちょ…跡部!! お前、何言ってんだよッ!!」 思わず跡部の胸倉を掴んで言う宍戸に視線を向けて、あくまで冷静に跡部が答えた。 「考えてもみろよ、宍戸。 王ってのは、その血族しかなれねぇんだぜ? 言ってみりゃ俺もお前も、どう背伸びしたって絶対になれねぇんだ。 こんなチャンス……2度とは来ねぇ」 「ほ、本気なのかよ、跡部……」 思わず襟元を掴んでいた手が緩み、それを機に宍戸の手を退かした跡部が国王に 向き直った。 「引き受けてくれるのか?」 「……ええ。謹んでお受けします」 「よろしい!では今からそなたがこの国の王じゃ!」 周りに控えていた兵士達が、その言葉にわっと湧き上がる。 そんな周囲を余所に、宍戸はただ跡部を睨みつける他になくて。 「てめぇ………見損なったぜ、跡部ッッ!!」 今にも殴りかかりそうな宍戸の肩を滝が掴んで止めた。 そして国王に会釈をすると、忍足の服の裾を引っぱって合図を送り、謁見の間から 退室した。 「大丈夫だって。 跡部の気まぐれだろうし、きっとすぐに飽きて戻って来るよ。 俺達は少し宿で様子を見よう?」 「戻って来なきゃ、絶対許さねーぞ俺は!!」 「はいはい。ほら忍足も、帰ろう?」 「………ん、せやね」 未だに怒りが解けない宍戸を宥めながら、滝がちらりと忍足に視線を向けた。 終始無言だった彼の表情からは、何も窺えない。 それが逆に不安にも思えたが、とりあえず今は待つしかないと滝は2人を 宿屋まで引っ張っていった。 <NEXT> |