#9 跡部、ロマリア王に頼まれる。

 

「…はぁ。」
謁見の間にて、また跡部は重苦しい相槌を打つしかなかった。








どうしてこう、王族に居る者は大概に我儘に出来ているのだろうか?と
思ってしまう。
そう思っても仕方の無い言われようだったとも、思っている。



「シャンパーニの塔に住み着いている盗賊が、この城から金の冠を盗んで
 逃げたのじゃ。
 それを取り戻せたなら、そなたを勇者と認めよう。
 さあ、行け!」



こんな言われ方をして、気分を害さない方がどうかしているだろう。
「なんっだよあのオッサン!
 俺達は便利屋じゃねーんだぜ!?」
その王の態度に一番憤りを見せているのは、実は跡部ではなく宍戸の方だ。
まぁまぁと宍戸を宥めつつも、やはり不満げな色を消せない忍足も
言葉を漏らした。
「そんなに大事なんやったら、自分トコの兵士とか向かわせたら
 ええのんとちゃうん。
 どうすんねんな跡部、こんなアホな頼み引き受けるんか?」
新しく買い揃えた装備を身に付けながら、その言葉に跡部がちらりと視線を
忍足の方へと向けて。
「まぁ……こんな旅なんだ。
 少しでも恩を売って、コネ作っとくのも必要なんじゃねぇのか?」
「さよですか…」
どうやらこちらの勇者も、ロマリア王とタメを張るぐらい打算尽くしのようだ。
「けどよ宍戸、また塔だぜぇ?」
ニヤリ、と厭らしい笑みを見せながらからかうように跡部が言うのに、宍戸が
うっと言葉を詰まらせながらも……頑張った。
「だ、大丈夫だっつーの!
 おおお俺がいつまでも、た、高いトコロを怖がってるとおお思うなよ!?」
「………アカンっぽいな」
「ダメっぽいよね」
どもりながらも気丈に言い張る宍戸を眺めて、忍足と滝は言葉を交わしながら
苦笑を浮かべた。










宿で休息を取りながら、王から貰ったこの地域一体の地図を眺め、とりあえず
向かうべき場所を確認する。
「うーん…遠いね」
「せやけどコレ、ぐるっと一回りせんと行かれへんねんなぁ…。
 ココんとこで繋がっててくれたら、もっと早かったんとちゃうん」
「忍足お前、地形に文句言っても仕方ねぇだろ」
「回りくどいのが嫌いなんや、俺は!」
「あーあー、ハイハイ」
「跡部…お前絶対俺を馬鹿にしとんやろ」
じとっと睨んでくる視線をさらっと流して、跡部がロマリアより北上した
ところにある村を、トンと指差した。
その村を軸に東西南北に街道が繋がっている。
見れば山村のようだが、誰もがこの場所を中継地点にしているだろう事は
安易に想像できた。
「カザーブ…か。とりあえず此処まで行って、一旦休憩だな。
 それから塔を目指して西に進む。妥当なセンだろ?」
「ま、それしか無いだろうね」
「しゃーないな。ほんならそれで行こか。
 ところで……」
道順も確認できたところで、はた、と忍足が気付いたように顔を上げた。
「宍戸はドコ行ったん?」
「ああ、隣の部屋で寝込んでるよ」
なんでもないように返ってきた滝からの返事に、訝しげに忍足が眉を顰める。
「寝込んだって…どないしたん?体調でも悪いんか?」
「あ−…ううん、そういうのじゃないんだけどね?」
ちら、と滝と跡部が視線を交わして、片方は困ったように、もう片方は
呆れたように笑みを見せた。



「「 恐怖再び、ってヤツ? 」」







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