あちこちを捜し回ること数時間。
漸くその姿を発見したカカシは、ホッと吐息を零した。
「またあんなトコロにいたよ………あのバカ」
演習場の近くの森の中、任務を途中で放り投げて、どうやら彼は
また修行をしているらしかった。
「……帰ってからやりゃいいのに……やれやれ、」
軽く吐息を零すと、カカシは彼へと向かって気配を殺し駆け出した。
こういう時の対処方法は身に染みて分かっている。
助走をつけて、彼より5歩手前で強く大地を蹴って。

 

「ダイナミックエントリー!!」

 

その豪快な蹴りは、小さな背中にまともに直撃した。

 

 

 

 

<The wing of silver is my treasury.>

 

 

 

 

 

 

「ぐはッ!!」
ごろごろごろ、と地面を転がった彼は、真正面の木の幹にべち、とぶつかって
その動きを止めた。
「うん、今日も快調!さすが俺だ」
そして蹴りを放ったカカシ本人は、軽く屈伸をしながら満足そうにそう言った。
暫くピクピクとしていたが、やがて彼はよろよろと立ち上がる。
「……カカシ、お前、今のはちょっとシャレになってないぞ……」
「自分の持ち技でふっ飛ばされる気分はどうだ?ガイ」
努めて不機嫌さを隠した表情で笑いながらカカシが言えば、打った顔面を擦りながら
ガイが抗議をすべくカカシへと詰め寄った。
「大体、どうして俺がいきなりお前に蹴られなければならんのだッ!?」
「………へぇ、なんだお前、自覚なかったんだ?」
にんまりと満面に浮かべた笑みに、薄ら寒さを感じたガイが一歩後ろに下がる。
だが、カカシはそれを許さないように指先でその小さな頭を摘み上げた。
「何度も言ってる筈なんだけどなぁ。
 任務を途中で放り出してどこかに行くなってさ」
「ほ、放り出してなんかないぞッ!!
 ちゃんとあの密書は相手方に届けてきた!!」
「だったらちゃんと報告しに来なさいよ。
 指令をこなしたら、主にその事を報告する。
 そこまでが任務なの、OK?」
「………う、」
「何度も同じこと言わせるんじゃないよ、ガイ」
「す…すまん」
しょんぼりと項垂れるように頭を下げて言うガイに、よし、と頷くとそのまま
カカシは自分の肩に座らせた。
こんなトコロでのんびりしている暇はないのだ。
「あんまりサボるなよ、それでなくても忙しくなりそうなんだから。
 わざわざ捜しに出る時間も惜しいんだよ」
「何かあったのか?」
「例の国で戦争が始まっちゃってね。
 お前にも働いてもらうよ」
「……そうか」
戦争か、と呟いて、ガイが穏やかな青空を見上げる。
里はこんなに平和なのに、一歩外へ出るとそこは混沌とした世界。
それ以上は言わず黙ってしまったガイを、カカシは横目で眺める。
戻るか、と声をかけると、ああ、という返事があったので、
カカシはその場所を後にした。
ひょいひょいと軽い動作で木を伝いながら、本部にしている場所へと向かう。
木々の隙間から時折零れて来る太陽の光を受ける、白い翼が眩しかった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 

「激眉先生じゃん!おっせぇー!!」
「ガイ先生!!おかえりなさい!!」
「おう、遅くなってすまんな!!心配させたか!!」
「それ……俺に言ってくんない?ガイ…」
部屋に入るなり転がるように飛んで来た2羽の小鳥に向けて、ガイはぐっと
親指を立てニッと笑みを浮かべる。
その隣でげんなりとした表情を見せながらカカシはそう突っ込むと、さて、と
気を取り直したように部屋の中を見回した。
密書運搬を専門とする、忍鳥を育てるのを主な仕事としているカカシであるが、
いつの間にやらその忍鳥の管理まで任されてしまっている。
任務で遠くに出る忍への貸し出しは勿論なのだが、時には密書を手に此処へ
やってくる者までいるのが頭の痛い現状だ。
そして、先にガイにも話した戦争の件で、つい先程ごっそりと控えの忍鳥を
持っていかれてしまった。
今ここに居るのはガイと、まだ忍鳥としては未熟で使えない、リーとナルトだけ。
完全に人手、いや鳥手不足だ。
「………ま、後はなるようにしかならないか。
 とにかくガイを死ぬまでコキ使う方向で」
「今何かさらっと恐ろしいこと言わなかったかお前……」
ガイの突っ込みをさらっと無視して、カカシは棚からいくつかの兵糧丸を取り出し
小さな包みをいくつか作ると、ガイの左足へとそっと忍ばせた。
「これ………少ないけど腹の足しにしてくれ。
 死んでもいいけど密書は届けろよ?」
「だからお前が言うとシャレにならんと…」

 

「カカシ、いるかッ!?」

 

そんなやり取りをしているその時、バタンと豪快にドアが開かれた。
相変わらず、いつでもどこでも煙草を吹かしているその姿に、カカシの眉根が
僅かに寄る。
「ちょっとアスマ、ここ禁煙なんだけどさ」
「いやいや、ちょっとそれどころじゃねぇんだよ。
 この書状を急いで砂まで運んでくれないか。
 火影様からの直の書だ、極秘な上に超特急でな。
 それと、もうひとつあるんだが……これは、雲隠れの頭行きだ」
「雲…?
 でも、あそこは今……」
戦争が起こっている地域のすぐ近くだ。
真偽は確認していないが、雲が加担していないとは言い切れない。
カカシが渋る様子を見せているのに気付いて、アスマが慌てて手を振った。
「いや、今んとこ雲は関係ねぇよ。
 ただ…確かに戦場のド真ん中を突っ切んなきゃなんねぇからな、
 ちょっと厄介といや厄介だが……俺たち忍が動いたんじゃ余計
 目立ってしょうがないだろう?」
「そりゃそうだけど……大体、砂と雲って方向が全く逆じゃないか。
 今うちにもそんな余力は……」
「まだルーキーにゃ早ぇか?」
「ちょっとな」
片や砂に宛てた火影直々のもの、片や戦場を潜り抜けて行かねばならないもの、
どちらにしたって、まだナルトやリーには荷が重い。
地図を見ながら2人して考え込んでいる様子を暫く眺めていたガイは、
翼を広げて机の上に舞い降り、両方の書状を手に収めた。
「俺が両方行けば文句あるまい?」
「は……お前が、両方か!?」
「ああ!!任せておけ!!
 先に砂へ向かい、その足へ雲へ向かう。
 それで良いだろう?」
驚いたように目を見開いたアスマに、そう答えてガイはぐっと親指を立てた。
なんと答えれば良いものか困ってアスマがカカシへと目を向けると、彼は
地図を睨んだまま、何やら真剣に考えているようだった。
「……砂まで1日半、そこから雲まで約4日……戻りを入れると
 大体8日ってトコか」
「ん?」
「リミットは8日だ、行けるな?」
「もちろんだ!!」
胸を張って自信満々に答えるガイを少しだけ心配そうに見たが、
カカシは密書を右足へと忍ばせた。
「こっちが砂、こっちが雲だからな、間違えるなよ」
「おう、じゃあ早速行ってくるぞ」
「ガイ先生、気をつけて下さいね!!」
「ちゃんと帰って来るってばよ、激眉せんせー!!」
口々にそう声をかけてくる小さな2羽の頭を両手でぐりぐりと撫でると、
ガイは窓の縁に足をかけた。
南西の風、天候は晴れ。

 

 

「青春フルパワーで発進だーー!!!」

 

 

翼を大きく広げると、その姿はあっという間に見えなくなった。
やれやれと肩を竦めながらカカシが灰皿を渡すと、短くなった煙草を
揉み消しながら、アスマがしみじみと口を開く。
「相変わらず一人で賑やかだな、アイツ…」
「五月蝿いだけだよ、アレは」
「しかし、ホントにアイツだけで大丈夫なのか?」
本来ならば、一ヶ所を対象に往復させるのが忍鳥の正しい使い方だ。
あっちこっちに寄らせると、最悪迷子になって戻ってこれないのがオチである。
まだ少し不安が残るのだろう、そう訊ねてきたアスマに、カカシはへらりと
笑みを浮かべた。
「大丈夫大丈夫、心配ないよ。
 アイツが、此処では一番速くて確実だから」
「此処で?この中で、じゃなくてか」
「じゃなくてさ。
 知らないだろうから教えてやるけど、俺が契約してる口寄せの動物って
 アイツなんだよ」
「………へぇ、」
数いる忍鳥の中で、ガイだけがカカシと直接契約を交わしている。
例えばカカシ自身が何かの任務で外に出たとする。
そういう時に彼が呼び寄せ使える忍鳥は、契約を交わしたガイだけだ。
つまりは、それだけ彼に信用を置いている、という事か。
「ま、お前のお墨付きなら、大丈夫だろ」
「ちなみにアイツ使うと別料金発生するから」
「マジかよッ!?」
慌てるアスマに嘘だよと返して、カカシは窓から空を見上げた。
その縁では、ナルトとリーが並んで座ってじっと外を見つめている。
どうやらガイが戻って来るまで其処で待つつもりらしい。
「アスマはこれから?」
「ああ、まぁーた戦場だ。
 ったくロクでもねぇよ、戦争なんて。めんどくせぇ」
「あー…俺、戦場なんて何年出てないだろ」
空を見上げながらぼんやりと呟くカカシの背中を見ながら、アスマは小さく
苦笑を浮かべた。
「お前はもう、戦場はいいんじゃねぇの?」
「どういう意味だよ?」
「今の方がお似合いって事さ。
 あのバカ鳥とバカやってる方がな」
胸ポケットから新しい煙草を取り出し咥えると、じゃあな、とカカシに言って
火をつけながらアスマは此処を出て行った。
その姿を見送ってから、カカシはちらりと横目で2匹の小鳥を見遣った。
「……で、キミ達はいつまで其処にいるのかな?」
「ガイ先生が戻ってくるまで、です」
「大丈夫だよな?カカシ先生。
 ちゃんと戻ってくるよな?」
「ああ、大丈夫だよ」
小鳥達はそこから離れる気は全くないようである。
実際8日間も其処にいるわけではないだろうが、とりあえず気の済むまでは。

 

 

付き合いますか、と小さく独りごちると、カカシは壁に背を預けるようにして
その場に座り込んだのだった。

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

妄想の果てはこんな話になってしまいました……ヒィ……!!(ムンクの叫び)
こんなもので宜しければ、貰ってやって下さると有り難いです。

この後、戦場を抜けてる真っ最中に、流れ矢に当たるか忍鳥だとバレて
撃ち落されそうになるかで怪我をするとオイシイかもしれません。
それでも任務を全うすべくガイ鳥は頑張るんだと思います。
血を流しても必死でカカシの元まで帰るんだろうなぁとか思います。
すっかりボロボロになってもちゃんと約束通りの日程で戻って来たガイ鳥を
カカシはきっと介抱してあげるんだと思います。
そんな時のカカシ先生は、軽口は叩くけれどもきっと優しいんだと思います。

 

…どうやってこの妄想止めましょうか…?(笑)

 

大江戸かるた様へ捧げます(^^)