「……まいったなァ」
公園の片隅で、妙な生き物に出会った。
真っ白な、たぶん犬だとは思うのだけれど、それにしたって相当にでかい。
普通の犬の何十倍かはあろうという巨体なので、自分でも背中に乗れそうだ。
ガリガリと頭を掻いて、近藤は途方に暮れたような声を出した。
「なぁ、お前さんの飼い主は一体ドコ行っちまったんだい?」
「ワン」
「近所から苦情がきてんだよねぇ。
確かにこんな身体でじゃれつきでもされたら、子供じゃひとたまりもない。
けどこのデカさじゃあ、保健所でも対応しきれねーだろうしなあ」
「ワン」
「いやワンじゃなくて」
この公園の近所に住む住人から、巨大な野良犬がいて危ないから何とかしてくれと
通報があって、やってきてみたのだけれど。
まさかここまでとは思わなくて、近藤は困る以外になかった。
引っ張って行くにしても、これだけ大きいとどれだけ頑張ったって動かない。
「はぁ〜……ほんと、飼い主ドコ行ったんだ?
首輪してるみたいだから、どっかで飼われてるんだろ?
家の場所分かるなら自分で帰ってみてくんない?」
「ワン」
近藤の言う事が分かっているのかいないのか、律儀に鳴いて返事はするが、
一向にその場所から動こうという気配が無い。
それどころか地面に寝そべってしまって、動く気がないのが見え見えだ。
「うーん……仕方ないな、待ってみるか」
寝そべった犬の傍に近藤も座り込むと、白い毛並みに背中を凭れさせるようにして
体重を預ける。
もちろんそのぐらいの重量を何とも思わないのか、近藤の存在など何処吹く風で
犬は眠るつもりか瞼を閉じてしまった。
「おお、すっげェ毛並み!ふっかふかじゃん!!
こりゃとっつぁんのトコのソファなんて目じゃねーな」
飼い主も現れず、犬に動く気が無いのであれば、せめて自分に出来る事はといえば
勝手に動いて公園で遊ぶ子供達に怪我が無いように見張っていることぐらいだ。
ぽかぽか陽気の昼下がり、ふわふわの毛並みを背にして地面に足を投げ出した近藤が
そのまま眠ってしまうまでに、そう時間はかからなかった。
「……で、なんでこの人はこんな所でサボってんのかね」
何度携帯に電話しても一向に出ない近藤を捜して公園にやって来たのは土方だ。
それまでに方々を歩き回ったが、この公園の中に踏み込んでから近藤を見つけるまで
然程時間はかからなかった。
とにかく大きな犬が傍で落ち着いているのだ、否が応でも目立ってしまう。
近藤のすぐ近くに寄ってもまったく気付かないぐらい、彼はぐっすりと
お休み中のようだった。
「参ったな、そろそろ屯所に戻ってもらわねぇとなァ………けど、」
余程この場所での昼寝が心地よいのか、気持ち良さそうに眠る姿を目の当たりにすると
どうしてだか起こそうという気になれない。
困ったように吐息を零して、土方は懐から煙草を取り出して咥えた。
起こすべきか、もう少し待ってみるべきか。
答えの出ないまま暫くの時間が過ぎた頃だ。
「ワン!!」
突然ぴくりと身じろいだと思うと、一声吠えて犬の方がその場から立ち上がった。
あまりに唐突だったので、驚きで声の出せない土方の目の前で、ずるりと背中が滑った
近藤が重力に負けて地面へと頭を打ち付け目を覚ます。
「い……いってェェェ!!」
「近藤さん、大丈夫か?」
「頭割れるかと思った…!!」
ごろごろと土の上を転がってから、頭を擦りつつ近藤が身を起こして、先程まで傍に
居た筈の白い犬を目で捜す。
嬉しそうに尻尾を振りながら、犬は少し向こうの砂場を軽く飛び越え駆けていく所だった。
さらにその先を見れば、桃色の髪を左右でお団子に結った少女が犬の元へと
走って来るのが分かった。
一目で知れた、少女こそが【飼い主】なのだと。
「漸くお迎えが来たのか……いや、何事もなくて良かった良かった」
「何だったんだ?あのでけぇ犬」
「いやな、公園に居座ってて心配だって報告があったから、一緒に居て飼い主を
待ってたんだよ」
「寝ながらか」
「……それを言うなって」
土方の言葉に近藤が誤魔化すような笑みを見せた。
それにただ肩を竦めるだけで何も言わずにいると、そういえば、と今更のように近藤が
問いかけてくる。
「そういや、なんでトシが此処に居るわけ?」
「ん?」
問われて少し考えるようにした土方が、煙草を地面に落とし足で踏み消すと、
何でもない事のように言った。
「俺はアンタを迎えに来ただけだよ」
<終>
煙草のポイ捨ては絶対にいけません。(言いたい事はそれだけか)
近藤さんと定春をセットで書いてみたかっただけなんです。
まだ真選組が万事屋と出会って間もない頃でしょうかね、コレ…。