「総悟はもう一人でも大丈夫だ」なんて、姉の墓前で呟いた男に。
コイツは俺の何を知っているというのだろう、何の根拠があって
そんな事を言うのだろう、と、まず不快に思った。
そして、その次は。

 

 

「あーあ、やっぱり俺、アンタのこと嫌いだなァ」

 

 

思ったことがそのまま口から零れて、しまったと思ったが、
直後にまぁいいやと考えた。
どっちにしたってそんな事は、相手もよく分かっている
だろうから。
「………いたのか、総悟」
「俺の方が先客だったんでィ。
 後から来てベラベラ好き放題に喋くってたのはそっちだ、
 責められる謂れはありやせんぜ?」
「そんなつもりはねェよ」
ふぅ、と吐き出した煙草の煙を追うように空を見上げながら土方は
そうとだけ返した。
総悟は墓石を挟んで反対側に座り込んでいて、今も姿を現してはいない。
「土方さん、ひとつだけ教えちゃくれやせんか?」
「……なんだよ」
「どうして、姉ちゃんをフッたんですか」
「…………。」
答えに迷って土方が視線を落とす。
西に傾いた太陽が作り出した長い影が、正面の冷たい石にまで届いていた。
どうして、なんて今更問われるなんて思わなかったが、確かに疑問に
思うのも仕方が無いだろう。
お互いに向いている思いの方向が同じだったなら、振る必要はどこにも
無いはずなのだから。
けれど、自分は知ってしまった。
同じ方向を向いているはずだと、その時がくるまで自分も思っていたぐらいだ。
だけどそれは、今居るこの場所で安穏を過ごしていた時間の中で得た、錯覚。

 

 

「…………それが、必要だったからだ」

 

 

彼女のためにも、そして自分のためにもそれが一番良いと思った。
だが結局、彼女のためにと思ってした事が本当に彼女のためになったかどうかは
分からない。
それを判断するのは自分じゃない。
「少なくとも……俺にはそれが必要だった。
 ちゃんとケジメをつけなきゃならねぇと思ったんだよ。
 ………ま、お前にゃ分かんねぇだろうが」
「惚れてなかったわけじゃなかったんでしょ?」
「まぁ、な。
 だが………俺の魂を捧げたい人は、他にいた。
 そういうことだ」
悪ィなと呟けば、腰でも上げたか墓石の向こう側からひょこりと総悟の栗色頭が
飛び出してきた。
また剣呑な目をして睨んでくるかと思いきや、不思議と飄々とした様子で
土方の隣までやってくる。
何を考えているか一目では判断しかねるその様子に、短くなった煙草を
地面に落とし踏み消しながら、土方が怪訝そうな視線で見遣った。
「俺ァやっぱり、アンタの考えがよく分からねェ。
 いや………分からねぇのは半分だけ、かな」
「…?」
「あとの半分は、言うのも癪なぐらい痛いほどに分かるんでさァ。
 ………まったく、嫌んなるぜィ」
はぁ、と吐息を零して総悟は「姉ちゃん、今日は帰るよ」と告げて
さっさと墓石に背を向けた。
「おい、総悟…!?」
振り返って土方が不思議そうなまま声を上げる。
それに顔を向けることも無いままで、総悟はひらひらと手を振った。

 

 

「ったく、分かりすぎて嫌んなる。
 だから俺はアンタが嫌いなんでさァ」

 

 

一緒に帰りたくねぇから、あと10分ほど其処に居ろよマヨラー。
そう告げて総悟は姿を消した。
後に残された土方が、首を捻って少し考えるようにしてから、仕方無さそうに
もう一本煙草でもと懐を弄った。
その口元が、ニヤリ、と孤を描く。

 

 

「………俺も、おめェなんか嫌いだよ」

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

私の中の土方さんと総悟の関係はこんなカンジ。

一言で言えば「嫌い」なんだけど、実際はもっともっと複雑な
何かが根っこにあるイメージ。