しとしとと雨が降る中で、何をするでもなく、ただ、そこに居た。
服が濡れて重たくなろうが、体の芯から冷え切ろうが、構いやしなかった。
ただ、そこから離れたくなかった。
だから。

 

 

 

 

「総悟、何してるんだ?」
「……別に何も」
「………。」
日が傾いても雨が強くなっても戻って来ない総悟を捜して、近藤は傘を手に
その場所へと赴いた。
正確には、居場所が分かっていたので捜すのではなく迎えに行ったのだが。
冷たい墓石に凭れるようにして、総悟はまた墓地に座り込んでいた。
今日で3日目だ。
一見では落ち込んでいるようにも塞ぎ込んでいるようにも見えなかったので、
その行動には何か理由があるのだろうと、近藤も土方も何も口にはしなかったが、
雨が降っても戻って来ないとなれば話は別、風邪でも引いたら大変だ。
手に持っていた傘に総悟の体を入れるように差し出せば、やめて下せぇ、と総悟が
ちらと見上げて自嘲気味に笑う。
「俺を迎えに来させちまって、近藤さんが風邪引いたら大変でィ」
「そうヤワにはできてないさ。
 お前こそすっかりびしょ濡れじゃねーか、早く帰って風呂入ろうぜ」
「………もう少しだけ、此処に居たいんでさァ」
「じゃあ俺も、もう少し此処に居るさ」
総悟の隣にしゃがみこんで、近藤はそう言って声を上げて笑った。
傘の端から見上げた空は、分厚い灰色の雲で覆われている。
しとしとと落ちてくる水滴が、まるで涙のようだと思った。

 

 

「………もう少しで、分かりそうなんでさァ」

 

 

ぽつりと零したのは総悟で、近藤は空から視線を離して隣へと向ける。
「何が?」
「色んなことが」
「……たとえば?」
「例えば………姉ちゃんの事とか、近藤さんの事とか、……あのヤローの事、とか」
あんなにはっきりと分かりやすかった関係なのに、自分の全く知らないところで
結論を出した二人は、これまた自分の知らないところで分かり合っていた。
見せつけられるほどに伝わってきていた思いを、思い知らされていて、なのに出された
結論を前に、その過程だけを知らずにいて。
きっと心苦しかったに違いない、姉を大切にしていただけに、許せなかったに違いない。
傘の持ち手を肩に乗せるようにして支えると、近藤は空いた左手で総悟の頭を
くしゃくしゃと撫でつけた。
雨ですっかり濡れた髪は普段の柔らかさなど何処にもなかったけれど、
それでもやっぱり細い髪は手に優しく触れる。
「俺ァ、あのヤローが大ッ嫌いでェ」
「ははは」
「こんなに嫌いになれた相手も珍しいですぜィ?
 希少価値がありまさァ………だから、」
「大事にしてやってもいい、か?」
「…………。」
「ミツバ殿が大事にしていた相手だからな、そうしてやった方が彼女も喜ぶだろう」
「けど!」
すっくと立ち上がって、総悟は強く声を上げた。
傘から抜け出し雨の中へと飛び出して、くるりと振り返る。

 

 

「俺は、近藤さんが一番大事なんですぜィ?
 そこんとこ、重々宜しく頼んまさァ」

 

 

帰りましょうや、と差し出してきた総悟の掌と顔を交互に見遣りながら、
近藤はたまんねぇなァと、小さく苦笑を零してその手を掴んだ。

 

 

 

 

 

迎えに来た筈なのに、まるで自分が迎えに来てもらったようだ、と。

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

総悟の中では【ミツバ≧近藤>>…>>土方≧その他】がデフォ。(笑)