「…………トシ、怒ってる?」
「怒ってねぇよ」
「いや、絶対怒ってるよな!?」
「怒ってねぇって」
「いやいや!!その顔は絶対怒ってる顔だ!!
俺は騙されねぇぞ!!」
「分かってんだったら少しは気ィ遣え!!」
ばしん!
思わず手が出て、土方はしまった、と顔を顰める。
怒りに任せて思いっきり近藤の頭をはたいてしまったのだ。
ヤバイ。これはヤバイ。切腹モノか、いやそれよりも沖田に知られたらその前に
命を奪われる。
「あ、そ、その、近藤さん………悪ィ」
「……いってェ〜……おま、もうちょっと手加減しろよ、
俺一応怪我人なんだから……」
「……その怪我が問題なんだろうが……」
傍に置いた救急箱の蓋を閉めて、土方がはァ、と重いため息を零す。
お妙さんのところに行ってくる!と意気揚揚として出かけた近藤が、体中傷だらけにして
帰って来たのはそれから数時間が経ってからだった。
きっと相変わらずのストーカー行為にお妙がキレたというのが実情だろう。
お妙に対する若干の苦い思いは否めないが、それ以上に近藤に対する自業自得だと
いう思いの方が強い。
避ければ良いのに、近藤は一度もそうした事がなかった。
彼曰く「怒らせたいワケじゃないから」と言っていたから、きっと避ければ逆撫で
してしまうという自覚はあるのだろう。
お妙に対してそこまで気遣いができるのに、どうしてこっちにはその気遣いの
半分も回らないのだろうか、と常々土方はそんな風に思っていた。
ボロボロになって帰って来た近藤を見た時の自分達の気持ちや、こうやって手当てを
してやっている自分の思いなど考えてくれた事があるのだろうか、なんて。
そんな事を考えてふつふつと怒りが沸き起こってきたのだから、あの近藤の言葉に
反射的に手が出てしまった事は勘弁してほしいと思う。
(だって……分かっててやってんじゃねぇか、ソレ)
隊士達が心配している事も、自分や総悟が呆れ半分でそれでも気にしていることも
全部知ってて近藤は止めようとしないのだ。
まさに確信犯という言葉が相応しい。
「少しは懲りることを覚えたらどうだ、近藤さん」
「まだまだ!!俺の熱い想いはこんな事で折れるわけがねェ!!」
「………ホントに、」
馬鹿だな、という言葉だけは胸の内にどうにか飲み込んで、土方は救急箱を
元あった場所へと片付けた。
「なァ、トシよう」
「なんだよ」
「ちゃんと分かってるさ」
「は…?」
言ってニンマリと笑みを浮かべる近藤に、土方はむしろ意味が分からないと首を捻る。
「……なにが?」
「お妙さんに返り討ちにあってボロボロで倒れた後に、誰も助けてくれなかったら
きっと俺は折れてたさ。
折れずにいられるのは……お前らが拾ってくれるからだ」
「近藤さん……」
「だから俺はいつだって、お妙さんのことだけじゃなくて、どんな窮地に直面しても、
お前らがいる限り折れることはねーよ」
だから大丈夫なんだと言う近藤に、少しだけ呆れた表情を作り、煙草を吸うために
縁側に面した障子を開けながら土方は呟く。
「それじゃあ、今度アンタがあの女に酷い目に合わされた時は、助けも拾いもせずに
放置しておくよ。
そしたらアンタはあの女を諦めるって事だろう?」
「………トシ、」
懐から煙草を取り出したところで、近藤に声をかけられたので咥えながら土方が
後ろを振り向く。
決して厳しくはない、けれど真っ直ぐな力強い目をして。
「まぁ、そんな事ァできるわけがねーんだけど、な」
結局こっちが諦めるしかないわけだ。
小さくため息を零した後で、土方は表情を和らげて煙草に火をつけたのだった。
<終>
近藤さんが最強。