最初に意識したのはいつだっただろうか。
出稽古の帰り、じゃれて遊んでいた近藤さんと総悟が土手を転がり落ちてって、
呆れたような俺の目と、可笑しそうに笑う彼女の目が合った。
その時に知ったんだ。
俺と、その人は、とても良く似ていた。
例えば、人とはちょっと違う味覚を持っているところとか。
例えば、お互いに総悟には手を焼いているところとか。
例えば、近藤さんを見る時の、憧憬が色濃く表れた双眸だとか。
挙げると結構共通点は多かったりした。
共通点が多いと、自然と話も合ってくる。
そうやって話している内に、自分の中で彼女が少しずつ特別な存在になっていく
事に気がついた。
惚れていたのかと問われれば、間違い無く今なら肯定できるだろう。
お互いの気持ちがお互いを向いていたのに、俺達はその一歩を歩み寄る事が
できなかった。
近藤さんの夢、最後まで俺達を見捨てる事無く全部を拾い上げるために
作ってくれた道。
想像なんてできなかった、俺と近藤さんの歩む道が分かれ、外へと出て行く
近藤さんを見送る自分の姿なんて。
あの人と一緒に歩いていない、姿なんて。
俺には、選択肢なんて最初から存在してなかったんだ。
一緒に行くよと告げた俺に、近藤さんは酷く驚いた顔をして、それから何か
言いたそうに口を開いたけれど、結局言葉は出てこなかったようだった。
とはいえ、あの人が何を言いたかったかなんて簡単に想像できる。
きっと気にしていたんだ、俺と彼女の事を。
俺なりに考えた結果だからと近藤さんに言ったら、あの人はそうかと呟いて
それならいいんだ、と遠慮がちに笑った。
迷いなんて存在していなかった。
迷うぐらいなら、最初から俺はこんな所になんて居やしない。
彼女を連れて行く気は、不思議と起きなかった。
優しい近藤さんの事だから、きっと言えばあの人はいいよと笑っただろう。
俺がそうしなかったのは、それなりに理由がある。
刀を手に戦い続ける道を選ぶということが、どれだけ危険な事なのか、
きっと刀に触れた事も無いだろう彼女が理解する事はないと思う。
守るだけの自信が、俺には無かった。
自分の命と、近藤さんの命と、更に彼女の命なんて俺には重すぎて背負えなかった。
だから置いて行こうと決めたんだ。
俺じゃなくても、きっといつか彼女を守ってくれる人間は現れるだろう。
彼女に惚れて、一緒に時間を過ごして、気付いてしまったんだ。
「………アンタじゃなくて近藤さんを選んでしまった俺を、アンタは恨むかい?」
知ってしまったのは、自分の中に近藤勲という人間と何かを量る天秤が
存在していなかったということ。
彼女に対しては自分でない誰かがと思えたのに、近藤さんに対してはそんな風に
思えなかった。
護りたいと、誰よりも俺自身があの人の傍にいて、あの人の魂を護りたいのだと。
ミツバと近藤を比べることなど、自分にはできなかった。
「…結局アンタは何も言わなかったな。
恨み言ひとつ、我儘ひとつ言わなかった。
何かひとつでも言ってくれりゃァ……もう少し違ったんだが」
追い縋ってくる女は趣味じゃない。
一度だけ、連れて行けと乞うたミツバに興味が無いと返した自分へ、
彼女はそれ以上何も言わなかった。
武州を出る、その時も。
「アンタはやっぱり、俺を一番理解してるよ」
お互いにこんな感情なんて持たなければ、きっと良い友人になれたに違い無い。
こうしてミツバに永遠の別れを告げる時だって、きっと声を大にして泣いて
叫べたに違いないのに。
「総悟の事は心配すんなよ、アイツはもう、一人で大丈夫だからな」
懐から煙草を取り出し火をつける。
ふわりと空へ上がったこの煙が、空の上の彼女にまで届けばいい。
「………アンタの事が、とても好きだったよ」
今や過去形でしかないそれに、知らず口元から苦笑が零れ出る。
結局最後まで、自分は彼女に「愛している」とは言えなかった。
<終>
ミツバさん死後の土方独白。
最後の一文は、間に合わなかったという意味ではなく、言うことができなかったと
受け取ってくれると嬉しい。
それを言うのは彼女に向けてではないのですよ。
なんだかんだでトシは近藤さんに惚れ込んでいるものだから、
最終的にミツバと近藤の二択でトシは近藤さんを取っちゃった、そんなカンジ。
…ていうか原作見てるとそうとしか受け取れないんですが。(汗)
トシの、「惚れた女にゃ幸せになって貰いてーだけだ」って台詞がね、
なんというか、お前やっぱり近藤さん一筋なのな、なんて逆に思えちゃってね。
ミツバに対しては、自分以外にもいい人がきっと現れるからとか言うくせに、
近藤さんの隣を誰かに(例えば総悟とかに)譲る気はさらさら無かったんだなと。
ミツバ編、土近的にはほんと、ゴチソウサマでしたとしか言いようが!!(笑)
語り出すと長くなるので、この辺りで割愛。