焼いて骨だけになった姉を、武州へと連れ帰った。
一時は結婚するといって江戸へ出てきた姉だったが、やっぱり彼女に
江戸の空気は似合わない。
田舎の長閑な世界で、ゆったりと笑っているのが彼女らしい。
「……姉ちゃん、帰って来たぜィ」
姉の遺骨は両親と同じ墓に入れた。
いつか自分が死んだ時は、同じ場所に入りたいと思う。
早くに両親を亡くして、自分の身内は姉のミツバ一人だった。
だからこそ、自分は誰よりも姉を大事にしていたし、姉も自分を
愛してくれていたと思う。
だけど、こうなって、此処まで来て、漸く分かった事がひとつ。
姉が抱いた土方への思いを知って、自分は土方に姉を取られたと思ってしまったけれど、
だけど本当は、そうじゃない。
たぶん、きっと先に姉の手を離してしまったのは、自分の方だった。
近藤に出会って、彼と一緒に過ごして、彼について行こうと決めて、
真っ直ぐに立って先を歩む近藤について行くために、姉の手を握ったままでは
彼を追うことができなかったから。
「ごめんな、姉ちゃん。
俺ァ………姉不幸モンでさァ」
姉の手を離して一人で走り出した自分を、姉はただ後ろから見守ってくれていた。
今までずっと姉に手を引かれなければ何もできなかった自分が、漸く一人で立って
歩いて行くことを覚えたのだ。
きっと姉は嬉しかっただろう。それと同じだけ、寂しかっただろう。
ずっと一緒にいたのだから、それに気付かない筈が無かったのに、だけど自分は
気付かないフリをしてしまった。
それだけ強く魅せられてしまったのだ、近藤という存在に。
「姉ちゃん……俺、本当に強くなれたかな。
本当に……俺は何も間違ってなかったのかな」
生きている内に、本当は姉に直接訊いてみたかった。
だけど、今はもうそれを叶える術は無い。
確かに握っていた筈の手は離れ、もう届かない所までいってしまった。
「いつか、俺が死んだら姉ちゃんに真っ先に会いに行くから。
そしたら……その時は、また手を繋いでくれますかィ?」
一度だけでいい、もう一度だけ、甘えさせてくれないだろうか。
これで血の繋がった姉弟だ、きっと姉がしょうのない子ねと笑いながら
手を差し出してくれるだろう事は簡単に想像がついて、沖田は小さく
苦笑を零した。
死んだら真っ先に会いに行くから、その時には手を繋いで貰おう。
そして、どうしても解けなかった謎をひとつ、投げかけてみようか。
姉ちゃん、アンタ一体あのマヨラーの何処に惚れたんでィ?
血の繋がった姉弟だというのに、それだけがどうしても分からないのだ。
<終>
ミツバ姉さん死後の総悟独白。
総悟の疑問は私の疑問だ。(笑)