その部屋の障子をすらりと横に引いて、覗き込めば目当ての人物は
机に向き合って何やら書類と格闘している。
傍に歩み寄ると、広い背中に自分の背を預けるように凭れて、座る。
じんわりと感じる温もりを味わっていると、背中から響くように声が聞こえた。

 

「トシ?」

 

呼ばれたけれど、返事はしない。
懐から煙草を取り出したところで、もう一声。
「何しに来たんだよ、一服か?」
「………何でわかんだよ」
「そうだなぁ、」
うーん、と唸りを上げて、そこで近藤は書類にペンを走らせている手を止めた。
考えるように視線は宙を彷徨う。
「よく分かんねぇな、なんとなく、だ。
 だけどトシって分かったんだよ。そんだけ」
「そっか」
「で?
 今日は非番の筈のトシが俺の部屋に何の用だよ。
 折角なんだから外に遊びに出りゃあいいのに。
 俺ァ仕事中だからな、あんまり構ってやれねぇぞ?」
「分かってるよ」
ガリガリと頭を掻きながら言う近藤は、きっと途方に暮れたような顔をしているだろう。
想像できて、くくっと土方は喉の奥で笑みを零した。
「別に近藤さんに遊んでくれって言うつもりはねーし。
 なんで此処に来たかってぇと……まぁ、非番だったからかな」
「は?……意味分かんねぇんだけど」
「分かんなくてもいい」
灰皿ないか?と訊ねたら、後ろ手にコーヒーの空き缶を差し出されたので
有り難く受け取って、落ちそうな灰をその中に入れる。

 

「非番だから、俺ァ休んでんのさ」

 

おまけに己の一番安心するものが今屯所内にあるとくれば、外に出るなんて
逆に勿体無いぐらいだ。
「邪魔はしねーし、気が散るなら黙ってたっていいし、
 必要なら手伝ってやったっていいぜ?」
「手伝わせちゃったら、お前それ休暇になんないじゃん?」
「そうでもねぇよ。
 ……こうやってのんびり、アンタの傍に居られるならな」

 

 

ごん。

 

 

机に何かがぶつかったような音がしたので、とうとう土方はそっちを
振り返ってしまった。
視界に入ったのは、机に突っ伏した近藤の背中。
「……どうしたんだよ近藤さん」
「お前……そういう事なんで素で言えんだよ、恥ずかしい!!」
「悪ィか、本音だよ」
「もっと恥ずかしいからッ!!」
ああもう、と頭をぐしゃぐしゃに掻き回しながら近藤はゆっくりと頭を持ち上げる。
机に頬杖を突いて、ふぅ、と吐息を零して。
「なぁ、トシ」
「なんだよ?」
「お前、そんなに俺の傍に居たいんだ?」
「当たり前だろ」
「よォし、言い切ったな。
 それじゃトシ、明日は俺と一緒に出掛けようぜ、2人でさ」
「……なに、何処行くんだよ」
訝しげに眉を顰めながら言う土方の目の前に、ひらりと持ち上げられた机上の書面。
そこに書いてあるのは、始末書の3文字。

 

「明日はお前、俺とデートな。
 行き先は警察庁だ」

 

にんまりと笑顔で言う近藤だが、些かそれは引き攣っている。
自分達を拾ってくれた松平という男は1か10を唱えて発砲する、ある意味で
攘夷浪士などよりも余程厄介な相手だ。
「………悪い、近藤さん。
 明日は腹痛の予定で」

 

 

慌てて立ち去ろうとする土方が逃げ切るより早く、その襟首に近藤の手が伸びた。

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

イチャイチャには程遠い。(笑)

ラブい空気の中にも日常の慌しさやほのぼの感があればいいな、と。

 

 

…まぁ、うちのCPモノは基本的に糖度は低いんですがね。