「……チッ、繋がらねェ」
「さっき土方さんが一方的に電話切っちまうからでさァ。
 きっとスネてんですよ、山崎のヤツ」
「野郎、こんな時に……後でたたっ斬ってやる」
女を人質に塔に立て篭もった攘夷一派と、彼らの要請により準備されている
カレーの臭い。
更には、マスコットだか何だか知らないが邪魔でしかない万事屋の面々。
今までの流れと元凶と現在の状況の全てにしかめっ面を崩すことができず、
煙草の煙を燻らせながら、土方が忌々しそうに舌打ちを零した。
「あーあー、きっと明日の新聞の一面には、でっかく見出しが載ってんだァ。
 『一日局長と拉致女性、全員殺害!原因は一本の電話だった…!!』
 コレしかありませんぜィ」
「なんだそのスポーツ紙みてーな見出しはァァァ!!」
「土方さん、これはもう責任とって腹を切るしか」
「するかァァァァ!!」
「おいおい、何揉めてんだ?」
総悟の言葉に頭を掻き毟るようにして土方が怒鳴っているのを聞きつけた近藤が
呆れた表情でやってくる。
それに土方と総悟がお互いを指差して。
「「コイツが…」」
「分かってる。どっちも悪いの分かってるから。空気読め空気!!
 お前らが揉める度に、マスコミがシャッター切ってるの分かってる!?
 ホラ総悟、裏から銃火器乗せた車入ってきたから、ちょっと確認して来てくれ」
「………へーい」
近藤に言われたら従うしかない。
そうでなくても彼の言葉にだけは従順なので、沖田はその言葉に頷くと
寺院の裏手へと駆けて行った。
その間に土方がもう一度山崎の携帯へ電話をかけてみるが、やはり反応は無い。
ぶつり、と電源ボタンを押してコールを切ると、土方は短くなった煙草を
地面に落として足で踏み消した。
「…クソ、山崎め。やっぱり出やがらねぇ」
「え、ザキ?なんで??」
「アイツが連続婦女誘拐事件の方を担当してやがったんだよ。
 ったく……サボってんなら切腹で済ましゃイイが、そうでないならマズイな」
「居場所ぐらいなら発信機で追えねぇか?」
「……は?」
「は?って……トシ、お前何のために隊員に携帯支給してるか分かってんの?
 ホラ、ちょっと貸せよ」
言いながら土方が持っている携帯を奪うと、近藤は何事かを操作し始めた。
各自に配っている携帯電話にはそれぞれ発信機が搭載されていて、何か緊急事態が
あって連絡がつかない時も、相手の居場所だけはそれで確認することができる
ようになっているのだ。
とはいえ、そう頻繁に使うシステムでもないので、土方などはすっかり失念して
いたのだが。
「ええと、コレをこうして……ザキの携帯番号入れて……と」
ピ、とボタンを押すとすぐに検索が始まり、結果が画面に表示される。
それを近藤が差し出すと、恐れ入ったという風に苦笑を浮かべて土方は受け取った。
「トシ、何処だ?」
「ええと……此処から南東に約……30m…?」
「なんだよ、すぐ近くにいるんじゃん」
「南東ってぇと……」
くるりと示される方向に体を向けて、土方が訝しげに眉を顰めた。
真っ直ぐ前にあるのは犯人達が立て篭もっている塔だ。
それを近藤に伝えると、彼は小さく頷く。
「なるほどな、どうにかしてザキの奴あそこに潜り込んだのか…」
「って、どうすんだよ近藤さん!!
 山崎一人じゃあものの役にも立ちゃしねーぞ!!」
「……そうかなァ」
うーん、と首を捻って唸る近藤の元へと、確認を終えたのだろう沖田が戻って来る。
「近藤さん、武器はバッチリでさァ。
 突入するも外から爆撃するも何でもござれですぜ!」
「でもなぁ、中へ突入すると人質が危険だし、外から集中砲火したら人質も
 巻き込んじまうし……」
「結局どうにもならねェってことか」
「……いいやァ、そうでもねぇよ?」
にまり、と口元を笑みの形に歪ませて、近藤が土方の言葉に答える。
居場所からして山崎はあの塔の中、そして真選組マスコットの誠ちゃんも塔へと向かった。
大丈夫、運はこちらに向いている。

 

 

「今は主導権は向こうが握ってるが、勝負の鍵はこっちの手の内だ。
 侮辱にも屈辱にも耐えた甲斐があったな。
 ここまで堪えたんだ、もう少し辛抱してくれ。
 この勝負、最後まで耐え切ればこっちの勝ちだ!!」

 

 

見張られているので大きな声では言えないが、近藤はそれでもハッキリと隊員に告げた。
密やかに上がっていく隊員達の士気を目の当たりにして、土方と沖田は薄く笑みを零す。
「しゃーねぇ。
 総悟、もうちっとアイツらの相手してやるか」
「土方の首を斬れとか言ってくれねーかなー。
 そしたら喜び勇んで斬り落としてやるのになー」
「てめ……ほんと、後で覚えとけよ…?」

 

 

 

 

沖田の意に反して『近藤を斬れ』という指示が下されるのは、それから10分後のこと。

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

いやなんか、こんなコトがあればイイのになぁぐらいの
希望的観測で書いてみた。(笑)

なんにせよ、一方的に電話切られたザキがちょっぴり可哀想だ。