まさか自分が、こんな子供と留守を預かる事になるとは思わなかった。
不本意だ。非常に不本意だ。
苦虫を噛み潰したような顔で、高杉は縁側に胡座をかいて座ったまま、
庭先で遊んでいる子供を一瞥したのだった。
(…なんで俺がこんな事、)
なんでも何も、ジャンケンで負けたのがそもそもの原因なのだから、
誰を恨むのも筋違いというものだ。
恨むとするならば、自分をジャンケンで敗北させた運命の神を恨むべきか。
ゴロリと縁側に寝そべって、青く高い空を見上げる。
出て行く前の銀時と坂本が浮かべた笑いを必死に堪える様が自分に殺意を
芽生えさせたし、2人だけになって怯えたような泣き出しそうな、そんな
表情をした新八に更にイライラが増した。
もともと子供の扱いは苦手だし、それ以上に子供は嫌いだった。
我儘だし、すぐ泣くし、馬鹿だし。
仕方が無いので仲間達が帰ってくるまで寝ているしかないだろう。
そして戻ってきたら、速攻で銀時か坂本にこの子供を押し付ければいい。
そう考えていると、小さな足音が聞こえてきたので視線をその方へと向ける。
立っているのは新八で、あの、と言い難そうに自分の服を握り締めて俯く。
「………なんだ、ハッキリ言えよ」
「えっと……あの、」
「あァ、退屈なのか?適当に遊びに行っちまってイイぜ」
「………え?」
「手ェ引かれねーと歩けねェ赤ん坊じゃねぇんだろ?
勝手に何処にでも遊びに行けばいいじゃねーか。
危ねー事も、怪我も、ホドホドにならしといて損はねーぞ。
俺は此処で寝てるからな、後は好きにしろ」
「…………。」
途方に暮れたような顔をする子供に、更にイライラが増して高杉は瞼を下ろした。
自分にはどうせ、こんな対応しかできないんだ。
本格的に寝てしまったのだろうか、高杉の寝息を聞きながら新八はしょんぼりと
眉を下げて視線を地面に落とした。
違うのに。
タイクツとか、つまんないとか、そういうの。
本当は、そうじゃなくて。
「……おはなし、したかったんだけどなァ……」
がっかりした表情のままで、新八は眠る高杉の傍にちょこりと腰を下ろしたのだった。
日差しが西に傾き山間に姿を消そうとする頃になって、仲間達が帰ってきた。
いつも庭で何かしている筈の新八を捜して裏手に回り、おや、と思わず桂が
その歩みを止める。
後に続いてきた銀時と坂本に、人差し指を口元に当てて示すと、桂は反対の手で
縁側を指差した。
「……珍しいこともあるものだな」
「あらら、爆睡?」
「なんかあそこだけ平和じゃのー」
西日の暖かな光を受けながら、縁側で眠っている高杉の腹を枕にするような
かたちで、新八もすうすうと穏やかな寝息を零している。
寝てる高杉の顔に墨でいたずら書きをしてやろうかと画策し始めた銀時と坂本に
程々にしておけよと言い残して、桂は掛け布を取ってくるとその場を去っていった。
隔離されたこの世界だけは、今日も平和だ。
<終>
高杉さんは超放任主義。(笑)