おととい来やがれ。
そんな捨て科白と共に外に放り出された近藤を目の当たりにしてしまって、
思わず重い吐息が零れてしまった。
あのお妙とかいう女に対して若干の怒りを感じはすれども、それ以上に情けなさの
方が勝っている。
「………近藤さん、大丈夫か?」
「おー……イテテ、今日もお妙さんのパンチはキレがいいな」
「女に殴られて感心してんじゃねェよ」
はぁ、と今度は声になってため息を漏らすと、土方は近藤に向けて手を差し出した。
「掴まれよ」
「おう、さんきゅ、トシ」
「しっかしアンタは本当に懲りるって言葉を知らねェな。
何度玉砕すりゃあ気が済むんだ?」
「ちょ、玉砕とか言うなよトシ!!
お妙さんはなァ、ちょっぴりシャイなだけなんだってば!!」
「あ〜……ハイハイ、訊いた俺が馬鹿だったよ」
「なんか引っ掛かるなァ、それ」
「引っ掛かるように言ってんだよ。分かれよ」
地面に仰向けに倒れたままの近藤が手を伸ばして土方の手を掴むと、ぐいと力を入れて
引っ張り起こす。
まだ何か言いたげな近藤に、帰ろうと声をかけるとやけにアッサリと近藤は頷いた。
「……なに面白い顔してんの、トシ?」
「いや……近藤さんの事だから、名残惜しいとか何とか言って
また駄々捏ねるんじゃねェかと思ってたもんで……」
「いいんだよ、今日は俺の予想が当たったからな」
「予想?」
よく分からない事を言い出した近藤に、訝しげな表情を浮かべたままで土方は懐から
煙草を取り出し火をつける。
「予想ってなんだ?」
「いっつもさ、今日は誰が迎えに来んのかなァってさ、考えるんだよ。
トシかな、総悟かな、ザキかな、それとも……ってな?
今日はトシが来るんじゃないかって思ってたから、その予想」
「総悟だったらどうしてたんだ?」
「お妙さんにもっかいアタック!!」
「…………。」
「今日は予想通りにトシが来たから、帰るよ」
「ああ…そうかぃ」
いつでも素直に帰って来てくれると有り難いのだが。
そんな土方の気持ちなど知らないのだろう、女に邪険にされて追い出されたにも
関わらず近藤は上機嫌である。
いつでも前向きな彼の事だ、お妙に関してもまた明日があるさ、とか思っているのだろう。
前を歩く近藤の背中を見ながら、土方はふぅ、と煙を吐き出した。
(………俺にしときゃ、いいのによ)
そうすれば、自分がこんな手間をかけることも、近藤に想いの叶わない苦い思いを
させる事だってないのに。
いつだって両手広げて受け止めてやるってのに。
気がつけば随分と先へと行ってしまっている近藤が振り返って、遅いぞトシ、
置いてくぞ!と声を上げるのに、迎えに来てやったのに置いてかれるなんて
ツレねぇなァ、と土方は苦笑いで返した。
<終>
そんで、呆れた顔しながら土方さんはちゃんと近藤さんの後について行くんだ。
2人の間には絶対領域があると思う。