今、この場所は戦場になっていて、とても危険なのだ。
そんな中をどうして一人で、しかも丸腰でほっつき歩いてたんだ。

 

銀さんにとてもよく似た人は、そう言って僕を叱ったけれど、
正直な話、俄かには信じられなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘でしょう?僕をからかっているんでしょう?
そう言った新八の言葉に、白髪の男はあからさまな不快の色を示した。
「まぁ、別に冗談だと思うならそれでも構わねェけどよ」
呟くように言って先導して歩く後ろを、他に術も無いので新八は黙ってついて行った。
歩きながら考える、自分の置かれている状況というもの。
相変わらず人の気配は自分達以外に無く、姿を消した銀時と神楽も出ては来ない。
ほんの、ほんの一瞬で何が変わってしまったのだろうか。
ふと鼻を異臭が突いて、新八は辺りをキョロキョロと見回した。
瓦礫と化した家屋の周りに累々と横たわっているものから、それは発せられているようで、
思わず立ち竦む新八に気付いたか、前を歩く男は訝しげな表情で振り返る。
「……どうした?」
「え、なに、コレ…………死体…ッ?」
道端に無造作に転がっているものに目を向け呆然と言葉を吐く新八へ、男は何を今更と
いった表情をしてみせる。
「だーから、戦場だつってんだろ?
 とぼけんのも大概にしろっての」
「だ……だって、」
新八とて人間の亡骸を見たことが無いわけではない。
だが、こんな大量に、しかも血に塗れたものを見た事は無くて、ますます不安は募る。
「あ…あの、此処って………江戸、ですよね?」
「お前、頭大丈夫か?」
「イヤだからそうじゃなくって!!
 何て言うか……違うんですよ、何もかもが変わっちゃってるんですよ!!」
建物は壊れてなかった。
死体なんて転がってなかった。
連れが居た筈だった。

 

 

町は、平和だった。

 

 

「…………お前、何モンだよ」
「え…?」
「戦争なんて知らねぇ、アレも違う、コレも違う、余所者かって思えばそうでもねぇ。
 こっちからしてみれば、オメーの方が明らかにオカシイっての。
 お前、一体何なわけ?」
「僕は……」
ただ、買い物ををしてきただけだった。
これから帰って、天気が悪いから洗濯はできないけど、万事屋の掃除をして、
なのに、この状況は全てを覆す。
それだけはある筈がないと思う事象を、肯定してしまう。
「あの……変な事を聞きますけど、戦争って……何と戦ってるんですか?」
「なんだお前、そんな事も知らねーのかよ。
 今、この江戸は宇宙から来た天人ってヤツに狙われてる。
 幕府のヤツらはもう両手上げて降伏しちまったが……俺らは認めてねェ。
 だから戦ってんだ」
「天人……」
言葉はよく耳にする。
新八からすれば、今や江戸の町を普通に歩く宇宙人、という認識だ。
だからこれは、おかしい。
これではまるで時間を遡ったかのようではないか。
「あ、あの……今って、いつですか?
 ええと!別に記憶喪失とかそういうんじゃないんですけどッ!!
 ちょっと確認しておきたいっていうか、その……」
問えば男が益々妙な顔をしたので、慌てて手を振りながら新八はそう弁解する。
敢えて深くは訊かない事にしたのか、男は頭を掻きながら。
「年月日、でイイのか?」
「はい」
「今日は…」

 

戻って来た答えに、眩暈がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人になって考えたかった。
本気でこの男は自分をからかっているんじゃないかと思ってしまったほどだ。
だって、ありえないだろう?
「嘘……嘘だ、こんなの、だって…」
男が自分に告げた日は、10年前のものだった。
思わずダッシュで路地裏に逃げて、ぺたりとそこに座り込んだ。
ほぼ瓦礫と化した建物に背を預け、膝を抱える。

(10年前の今日っていえば……廃刀令が出される直前だ)

という事は、まだあちこちで攘夷を唱える侍が大っぴらにドンパチしてる頃だ。
自分は当然銀時には出会ってないし、神楽なんて地球にすら来ていない。
「どうしよう………どうしよう………」
信じたくないが、男の格好と先程の戦闘機がこの事を裏付ける。
そしてこの町の惨状も、あちこちに転がっている人間だったものも。
ぽろり、と自然に涙が零れてきて、慌てて新八は袖で拭った。
不安というのも勿論だが、あの煩い2人がいないだけでこんなにも心細い。
まだ一緒にいたならば、3人で大騒ぎもできただろうに。
「銀さん……神楽ちゃん……」
蹲って抱えた膝に顔を埋め、せり上がってくる嗚咽をどうにか飲み込む。
ざり、と砂を踏む音がして気がついた。
放って来てしまった男がやってきたようだ。
「ぅおい、ちょっとは落ち着いたか?」
「………銀さんも神楽ちゃんもいないんじゃ……僕、どうすれば……」
「なぁ、さっきから気になってんだけど」
「……はい?」
「その、銀さんと神楽って、誰だよ。ツレでも居たのか?
 なんかよー、その銀さんっていうの、自分呼ばれてるみてェで気持ち悪ィんだわ」
自分の傍にしゃがみ込んで途方に暮れたような声を出す男に、新八は泣くのも忘れて
きょとんとした視線を向けた。
白髪の天然パーマ、歳こそ若いが………もしかして。
「銀さん……ですか?」
「いや、だからな、お前」
「僕の言う銀さんは、坂田銀時って人です」
「………お前、」
じろ、と見てくる男の視線が急に鋭くなって、新八はギクリとする。

 

「お前、マジで何モンだ?」

 

そして俺に何の用だ。
そう告げてくる男に、新八は落胆にも似た吐息を零す。

 

 

 

 

夢なら早く、醒めてくれ。

 

 

 

 

 

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色々と嘘八百並べてますが、パラレルなのでお気になさらず。(笑)