普段と変わらない朝だった。
けれどいつもと少し違っていたのは、いつもなら1人で買い物に出るところを
銀時と神楽の2人もついて来た、という事ぐらいだろうか。
とはいえ銀時はジャンプ買いに行くんだと言い、神楽は酢昆布のストックが
切れたアルと言っていたから、新八を手伝おうという気はさらさら無いようだ。
今日は昼から雨が降ると天気予報で言われていて、まだ午前中も早い時間だと
いうのに空はどんより厚い雲で覆われている。
両手にビニール袋を下げていた新八が、これじゃ洗濯もの干せないなァと
憂鬱そうに呟いた。
「雨、降りそうですね」
「そうだなァ、今日は一日ジャンプでも読んでまったりしとくか」
「アンタはいつでもまったりしてんだろうが!!」
「風が吹いたら遅刻して、雨が降ったらお休みアルな!!」
「オメーらは南の島の大王かァァァ!!」
まったく、ぐうたらなんだから。
これでは今日も収入は見込めそうにない、と重い吐息を零しながら、新八は
途方に暮れたような顔で空を仰ぎ見る。
一応光は届いているが、太陽なんて雲で覆われてどこにあるか分からない。
一面灰色の雨雲が空を埋め尽くしていて、これはのんびり歩いてられないなと
傾けていた首を元に戻して前を見た。

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 

前を歩いていたはずの2人がいない。
驚いて周囲を見回して、更に新八は眉を顰めた。
何処となく、風景がいつもと違う。
「なにコレ……どうなって……、」
急に2人が傍からいなくなった事が不安に思えてきて、新八は歩みを早くした。
少しずつその速度は上がり、荷物を放り出して走り始める。
繋がる道は記憶の通りに続くのに、どうしてだろうか風景に覚えの無いものが
多すぎる。
「ぎ……銀さん、神楽ちゃん!!」
声を上げて2人を呼んで、唐突に新八は気が付いた。
この辺りに人の気配が一切無いという事に。
歩いていた道は先程寄ってきたスーパーの前を通る大通りだった。
だから、あの2人じゃなくても人通りがそれなりにあって然るべきなのに
前を見ても後ろを見ても人の気配がまるでない。

(どうしよう………どうなってるんだよ、コレ…!!)

半分泣きそうになりながら新八はただがむしゃらに走った。
頭の中は混乱を極めていて、万事屋に戻ってみようなんて思いつくわけもなくて。
ひたすらに駆けていると、突然耳を劈くような轟音と共に上空を何かが飛び過ぎて
いって、新八はそれに視線を持ち上げる。
飛んでいったのは飛行機だ。
もちろん、この時代にそんなものを持ち込んだのは天人に他ならないだろう。
だがそれは新八が知る、ターミナルにあるものなどとは型が違う。
それに空中とはいえ飛ぶには位置が低すぎる。
「あれは………戦闘機…!?」
なんでそんなものが、こんな所を飛んでいるのか分からない。
今は何を見ても不安が募るばかりだ。
とにかく銀時と神楽を捜そうと新八が走り出そうとして、それは急に襲ってきた。
それ、とは今しがた頭上を飛んでいった戦闘機だ。
少し先で急旋回して、真っ直ぐにこっちへ飛んで来る。
ガシャン、と音がして両翼から銃口が立ち上がった。
「………ち…ちょっとォォォォ!?
 なんでこっち狙ってんのォォォォ!!」
万事屋に入って色々と警察機関に睨まれるような事はしてきたが、いきなり銃口を、
しかも戦闘機のものを使って狙われなければならないような事をしたつもりはない。
大慌てで踵を返して来た道を走って逃げる。
ガガガガ、と音がして、すぐ後ろの道が銃弾で抉られていく。
あんなもの当たったらまず間違い無く死ぬ。
「ぎゃああああ!!勘弁してェェェェェ!!」
ますます青くなって必死で走るが、逃げ切れるとは到底思えなかった。
だが。

 

「こっちだ!!」

 

いきなり脇道から手が伸びてきて、新八の腕を掴むと力強く引っ張り込んだ。
叫びかける口元を手で覆われて、家と家の細い隙間に身を潜めたまま戦闘機が
行き過ぎるのを待つ。
恐らく細い路地に逃げ込んだのは気付いただろうが、戦闘機の巨体では
どうしようもないと判断したのだろう、暫く空を旋回していた鈍色の戦闘機は
そのまま空を飛び去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……た、助かった……」
ホッと息を撫で下ろして脅威が去った事に安堵すると、ふと気付いて新八は
助けてくれたのであろう相手を振り返った。
「あ、あの、助けてくれてありがとうございます。
 ホント急だったんで、パニクっちゃって」
「ビックリしたのはこっちだっつーの。
 なんであんなトコロほっつき歩いてたんだ?」
「え…」
「今この辺り、戦の真っ只中なんだけど。
 皆避難しちまってんのに、なんでまだ居んだよお前は」
「え……て、戦って………えぇ!?」
目を見開いて新八が大声を上げるのに、相手はまた静かにしねェか!と
慌ててその口元を手で塞いだ。
薄暗がりの中では影が濃くて相手の顔まではハッキリ見えないが、そういえば
胴に鎧を着込み、額当てまで宛てているところを見る限りでは、彼は一般人
というよりは戦場を駆ける兵士のようだ。
「なーに今初めて知りました〜みてーなツラしてんだよ。
 ……まぁ、とにかく此処に居てもしょうがねェな……。
 こっから避難所まではちょっと遠いからな、とりあえず俺らの隠れ家まで
 連れて行くわ。話はソコで聞く」
「もう……何がどうなってんだよォ……コレ……。
 銀さんも神楽ちゃんも何処行っちゃったの……」
周りに敵が居ない事を確かめて、助けてくれた相手はもう一度新八の腕を取り
大通りへと出た。
相変わらずの厚い雲で遮られた弱い光で、漸く相手の顔がハッキリする。
クセが強いのかバラバラに跳ねている白い髪。
何を考えているのか一見では判断し兼ねる、ともすればヤル気ゼロとも思われそうな
ぼんやりした目。
歳は自分より2つ3つ上ぐらいだろうか。
思わずあんぐりと口を開けっ放して、新八は呆然と前に立つ人物を眺めた。

 

 

 

 

 

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なんだか妙な展開で始まってしまったパラレルですが。

5本ぐらいで終わればいいな。

一応、銀新のつもりで書くんでそういう方向に持っていきたいという希望。