なにもかもが、偶然の生んだ産物だった。
たまたま、自分一人ではなくて職場仲間の女の子の連れが数人いた。
たまたま、ナンパをしてきた男達も、複数人のグループだった。
たまたま、その男達は帯刀していた。

 

それだけの事だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

けんもほろろに振る自分達に、男達は半ば躍起になってしつこく食い下がってくる。
これが自分一人なら、例え今この状態のように男達が腰のモノをチラつかせて
半分脅しのような声の掛け方をしてきたとしても、その得物を奪ってぶちのめす
ぐらいの自信はある。
だが、その脅しにものの見事に怯えた顔をした連れの女の子達を守りながらでは、
正直それも難しいかもしれない。
見るからにタチの悪そうな連中だが、廃刀令で根こそぎ武力が奪われている
このご時世に、それでも刀を携えているということは、それはお飾りなどでは
ないという事だろう。
それなりに、実力もあるに違い無い。
困ったように吐息を零して、お妙が思考を巡らせた。
どうにかしてこの場を切り抜けたいものなのだが。
いや、まだ、可能性はあるか。

 

 

 

 

「……って、聞いてんのかこのアマ!!」
「あらごめんなさい、全然まったくコレっぽっちも聞いてなかったわ。
 で、何だったかしら?」
「ちょ、ちょっとお妙…」
挑発してるつもりは無いが、本当に聞いてなかったのだからしょうがない。
傍にいたおりょうに咎められたが気にせず挑むように見上げると、それがまた
癇に障ったのか男達はこぞって刀を鞘から引き抜いた。
「ちょっと優しくすりゃあイイ気になりやがって」
「あらぁ、とんでもない。
 むしろ眼中に無かったぐらいなのに」
頬に手を当ててお妙がそう答えると、男の一人が刀を大きく振り上げる。
後ろで連れの女の子達が悲鳴を上げるのを聞きながら、お妙が手に持っていた鞄で
応戦しようと持ち手を握り締めた、その時だった。

 

 

「はい、そこまで。」

 

 

刀を振り上げた男が逆に背後から刃を首元に突きつけられて、小さく息を呑んだ。
恐る恐る目線だけを後ろに向けて、そこに立っている人物を確認する。
「………てめ…、真選組か」
「ちょっとちょっと困るよ君達ィ、ちゃんと帯刀許可持ってんの?
 え、なに、持ってない?そりゃあいけねぇな。
 ちょいと屯所までご足労願いましょうかァ?
 トシ、総悟、彼らを丁重にお連れしろー」
まさか警察が現れるとは思ってなかったのだろう、男達は一瞬怯みを見せたが
すぐに周りの仲間達が刀を抜いて、助けようと一斉に襲い掛かった。
だが聞こえてきたのは、肉を裂く音ではなく、剣と剣が交わる鈍い音。
「おいおい、この御方を局長様だと知っての狼藉ですかィ?」
「今ので罪状が3つは増えたな。
 てめぇらが近藤さんをどうにかしようなんて100万年はえーんだよ。
 オラ総悟、全員しょっぴけ」
「全員ってこたァ、土方さんも一緒にしょっぴいて構いやせんて事ですかィ?」
「構うだろ、お前ソレは構うだろ」
男達の刀を制しながら、間に入った土方と沖田が相変わらずの軽口を叩き合い、
そうこうしている内にやってきたパトカーに男達は全員放り込まれて、敢え無く
お縄頂戴となったのだった。
この間、ほんの5分ほどの展開だ。

 

 

 

 

 

 

男達を詰め込んだパトカーが去って行くのを見送ってから、近藤が困り果てたような
表情で頭を掻く。
前々から無鉄砲なところがあるとは思っていたが、まさかここまでだとは。
「………お妙さん。
 刀持った野郎相手に、本気で勝てると思ってたんですか」
「そういうわけじゃないけど……仕方無いじゃないの、他に方法が無かったんだもの」
「大声で助けを呼ぶとか、色々あるでしょう」
「……そういうのは性に合わないの。
 それに……呼んだってどうせ誰も来ないんだから」
父親を早くに亡くし、頼る相手も術もないままで、幼い弟を抱え必死で生きる内に
それは自然と身についたことだった。
つまり、自分の身は自分で守る、そういうこと。
だけど…と眉根を寄せたままでお妙は少し唇を噛む。
ほんの少しでも、僅かでも、頭を過ぎった筈なのだ。
きっと近くに居る筈なのだと。
それが悔しくて堪らない、まさかこんな男を心の何処かで頼ってしまった、なんて。

 

 

口が裂けたって言えるわけがない。

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

自分の脳内での近藤さんとお妙さんはこんなカンジ。