こういう時、自分は彼らの邪魔をするだけの存在なのだと、思い知る。
幕府が天人に膝を折ってから随分と経つが、あちこちで時折戦火が上がっていたのは
幼い新八も知っていた。
誰が起こしていたのかまでは知らなかったが、今日になって漸くその謎が少し解けた。
そのいくつかは、今一緒にいる彼らが起こしているらしい。
今だって、銀時一人を残して他の皆は刀を携え出て行ってしまっている。
銀時がこの場に残った理由は新八にだって明確で、つまり自分がいるからだ。
一人残して行くわけにもいかなかったのだろう。
「……銀さん」
「あー?」
「ごめんなさい、ホントは銀さんもいくのだったんでしょ?」
「あー、いいっていいって」
縁側に座る新八の近くでゴロ寝をしながら、銀時はヒラヒラと手を振って見せた。
本当のところを言えば、これは銀時にとって棚ボタみたいなものなのだ。
「戦争なんてよォ、ほんっとめんどくせーだけなんだよな。
俺ァこうやって寝てられるだけラッキーだと思ってんだからよ、気にすんな」
「めんどくさいって……じゃあ、どうしてたたかうの?」
きょとりと目を瞬かせて首を傾げる新八に、言っても分からねーんじゃねぇか?と
呟きながら、銀時は億劫そうに身を起こした。
胡座をかいたその上に、小さな新八を座らせる。
「まぁ、理由なんてのは人それぞれだからよ、皆がそうだとは言わねーが…、
俺の場合は、死なせたくない奴らがいるから、かな?」
桂や坂本なんかはアレでいて真剣に国の未来を憂えているし、高杉の心中は
正直なところ銀時には計りかねていた。
「…それじゃあ、戦争なんてやめればいいのに……」
「あっはっは、違いねェな!!
けど……まァ、そういうワケにもいかねーんだよ、なぁ…?」
攘夷なんてものに興味はなかった。
だけど、死なせたくないヤツらが居たから自分も刀を取ったし、そうして歩んで
仲間が増え続けるにつれ、大事なものが増えていった。
悪循環なのは分かっている。手離せばラクなことも知っている。
それでも。
「手が、離せねーんだよな」
そう呟いた銀時は、少しだけ悲しそうに見えた。
とまぁ、仲間が不在の間に色々と話してもらえたのだが、本当のところ新八が
理解できたのはほんの一握りだ。
攘夷の起こった背景なんて知らないし、多分聞いても分からない。
分かったのは、とにかく銀時が仲間を大事にしている、という事ぐらいだった。
だからこそ、やはり本当は行きたかったのではないだろうか。
仲間達が戻って来た時、無事な姿を見てホッとしたのが伝わってきたし、
行く時には確かにあったはずの顔が戻って来ていない事を知った時は、少しだけ
辛そうに顔を歪めていた。
怪我人もたくさん居たし、得たものなんて無いように思う。
そうしてまた新八少年は首を傾げるのだ、どうして戦うのだろうかと。
「へェ、意外と手馴れてんな」
「姉上がよく、お外であばれてケガしてくるから……」
「お前ソレ、フツー逆じゃねぇのか?」
傷口の上からガーゼを当て、包帯を巻いていく新八の手際のよさに
意外そうな顔をしたのは高杉だった。
基本的に自分の負った怪我は自分でどうにかするのが鉄則だ。
手が届かない場所とかになれば仲間に手を貸してもらうこともあるが、
受けたのは左腕だ、やろうと思えば自分でできるのに、救急箱を手にやってきた
新八は、お手伝いします、と言って包帯を取り出したのだ。
「……高杉さんは、」
「あ?」
「高杉さんは、どうしてたたかうんですか?」
「あー………どうしてって、」
今更そんな質問を受けることがあるなんて、思わなかった。
何と答えれば良いものか、と高杉は視線を持ち上げる。
少し考えるようにしながら目を向けたのは、新八の方ではなく、同じように傷の手当てを
している仲間達の方だった。
「守りてーモンが、あるからか…?」
「まもりたいもの?」
「俺はヅラや坂本のように国を変えようなんざ思っちゃいねェ。
いや、思っていた時期も確かにあったが……一等大事にしてたモンが奪われてからは、
そんな事はどうでも良くなっちまった。
国がどうなろうが知ったこっちゃねェ、こんな世なら潰れちまった方がいっそマシだと
思うこともある。
けど………今さら手離せねぇのさ、アイツらだけは」
抜けたいと思った事は何度もあるが、結局それができずに今だに刀を振るっている理由は、
とどのつまり、それだけ大事にしてるものがまだ残ってるという事だろうか。
「ヅラは本気で国を変えようと今も考えてやがるし、坂本は……まぁ、アイツは
いっぺんぐらいくたばってくれてもイイかもとは思うけどな。
銀時は………アイツの考えることは、よく分かんねーがよ」
包帯をきゅっと結びながら聞いていた新八は、高杉の言葉にぽかんとした表情をする。
「まぁ、お前にゃァちょっと難しい話だったろうな。
………なに間抜けな顔してやがる、クソガキ」
「え、だって………あはは、」
呆気に取られたような顔をしていたと思ったら、今度は唐突に笑い出す。
できました、という言葉に自分の左腕に目を向ければ、鈍くさいからか時間こそ
掛かったものの、綺麗に巻かれた白い包帯が目に入る。
なかなかどうして、やっぱり馴れたモンだなと感心しつつ、高杉はその子供が笑う
理由に見当がつかなくて僅かに眉根を寄せた。
「……なんで笑ってんだよ」
「おんなじだったから、おかしくて」
笑いが収まらないのだろう、残った包帯を救急箱に片付けながら新八は眦を下げて尚も
忍び笑いを零し続ける。
閉じられた木の箱を手に抱え立ち上がり、新八は他の怪我人も見ようとしているのか
周囲の状態を見回しながら、もう一度おんなじだ、と呟いた。
「同じって……何がだ?」
「高杉さんも、銀さんとおんなじ。」
ふふっと笑顔を覗かせて、新八は別の人間を看るために高杉の傍を離れ、駆けて行った。
(…………同じ? 銀時と、同じ??)
子供特有の語彙の少ない言葉に頭を悩ませたが。
「…………クソガキが。」
辿り着いた結論に、些かばつの悪そうな顔で高杉は頬を掻いたのだった。
<終>
書き上げたのは結構前なのに、日の目見たのは今頃か。
ごめんよ高杉さん。(笑)