「アンタ、またこんな所に居たのか」

 

砂利を踏みながら縁側に座る男の元へと土方は少し急ぎ足で歩く。
庭では数人の子供達が遊ぶ可愛らしい声が上がっていて、近藤の腕には
まだ二足歩行もできない赤子が抱かれていた。
どちらも、武装警察という名にはあまりにもそぐわないものだ。
彼らは先日地下賭博場に手入れを行った際、暫く預かることになった子供達である。
「よォ、トシ」
ひらひらと片手だけ振って挨拶をすると、ため息と共に煙草の煙も一緒に吐き出し
土方が呆れ返ったような表情をする。
近藤の傍にはジュースの缶が置いてある、という事は結構前から居るのだろう。
「あんまり可愛がんなって言ったろ?
 どうせその内引き取り手が見つかったら貰われてくんだ。
 情移っちまっても知らねーぞ」
「そうは言っても、いつ見つかるか分かんねェしな。
 理不尽に奪われた父親の分まで、今だけでも愛情分けてやんなきゃよ」
「………犯罪者だぞ」
「俺らにとっちゃァな、けど、あの子達にとっては大好きなお父さん、だ」
「…………。」
僅かに微笑みながら言う近藤を見て、土方は眉を顰めただけでそれ以上は
何も言わなかった。
もちろん近藤の言い分は理解できるのだが、それにしたって面白くはない。
彼の場合、愛情を少々安売りし過ぎるきらいがあるからだ。
あくまでも今のこの状況は引き取り先が見つかるまでの場繋ぎでしかないし、
今回は深入りしすぎた責任もあって引き取ったのだ、仕事だと割り切るべきだ。
「トシ。」
「なんだ?」
「………また何かカタい事考えてるだろ?」
「なんで分かる?」
「顔に出てるんだよ、お前。分かり易い」
カタいよなー?と腕に抱いた赤子の方を見て言う近藤に、自然と土方の口から
舌打ちが零れ出た。
そんな頭の固い副長を見上げ苦笑を浮かべながら、近藤はトン、と自分の隣を
掌で叩く。
「ほら、とりあえず座れよ」
「………ああ」
些か気まずそうにしながらも、土方は示されるままに腰を下ろす。
そうして、庭先で遊ぶ子供達へと目をやった。
地面に木の枝で絵を描く子、おはじきをして遊ぶ子、鬼ごっこをしている子、
確かに昔、近藤に出会うよりももっとずっと昔にやった事のあるものばかり。
「懐かしいだろ、トシ?」
「……あ?」
まさか今のも顔に出ていたのだろうか?
時折、近藤はまるで自分の胸の内の言葉に返事をするようなタイミングで
声をかけてくる事がある。
最初の頃なんかは、声に出して言っていたのだろうかと困惑したものだった。
「別に、懐かしいとかは思わねェさ」
「あー……そう思うほどには大人になってないってコトか。なー?」
「なんでそうなるんだよ!!
 大体俺とアンタってそう歳変わんねェだろーが!!
 それからいちいちガキに同意求めんの止めろ!!」
「ほら」
膝に乗せていた赤子を近藤は無造作に土方の膝の上へ乗せると、傍にあった
ジュースの缶を取り飲み干して、立ち上がる。
慌てたのは土方の方だ。
「ちょ、おい近藤さん!!
 俺ガキなんか持ったことねェから、どうすりゃイイか……」
「大丈夫だって、トシ。
 もうちゃんと首も据わってるしよ、普通に抱っこしてりゃいいから」
「そういう問題じゃ…!!」
近藤につき返そうと抱き上げた途端に、赤子が今にも泣き出しそうに目を潤ませた。
「ほーら、トシが怖い顔してるから泣きそうになってるじゃん」
「だったら今すぐ返すから引き取れ!!つーか引き取って下さい!!」
「やーだよ」
はは、と近藤は笑い顔を作って、缶を手に庭で遊んでいる子供達の元へと歩いて行く。
それを地面に置くと、遊んでいる子供達を見回して言った。
「缶蹴りする奴集まれー!!」
「ホント!?」
「やるやる!!」
「はーいはいはいはい!!俺やりますー!!」
「俺も混ぜて下せェ」
近藤の言葉に集まってきたのは子供達だけではなく、沖田や山崎をはじめ真選組の
隊士も物珍しそうにやってくる。
有り得ない光景に土方は頭を抱えそうになった。
「オイィィィ!!!
 総悟!!それに他のヤツらも!!
 テメーら仕事中だろうがァァァ!!」
「イヤですぜ土方さん、これも立派な仕事でさァ。
 それも近藤局長自らのお達しとあっちゃァ、断るわけにもいきませんや」
「嘘つけェェェ!!
 オメーは明らかに面白がって出てきたクチだろーがァァァ!!」
さらっと沖田が言うもんだから、他の隊士達もこぞってそうだそうだと声を上げる。
もうだめだ、こうなっては自分が何を言ったって止まるわけがない。
「よォし、大勢でやった方が楽しいからな!!
 近所に迷惑になってはいかんから、行動はこの屯所内だけにするように!!
 最初の鬼は言い出しっぺの俺がやろう。準備はいいか野郎共!!」

「「 おー!! 」」

置いた缶に足を乗せて言う近藤が一番ノリノリなのだから、自分にはこれ以上
どうしようもない。
とっつぁんにバレたら説教じゃ済まねーぞ、とぼやく土方に近藤は目を向けて。
「トシ、お前はそこで見学だ」
「元より混ざる気なんかねェっつーの!!」
「そこでその子になけなしの愛情を注いでやっとけ!!」
この子供にねぇ、と土方が膝の上の赤子に視線を向けた、その耳に缶が蹴られる
甲高い音が飛び込んでくる。
近藤が缶を取りに走り、子供達や隊士達が逃げ出していく。
ただのガキの集団に成り下がった仲間達を目で追いながら、土方は本日何度目か
知れない吐息を零した。
あんな奴ら放っておいて見回りにでも出た方が良いような気がするのに、
あーとかうーとか声を上げながらペタペタと自分に触れてくる赤子を放り出して
行く気にも、どうしてだかなれなかった。
こんな赤ん坊に愛情を注げ、なんて。

 

 

(…………バカだよな、近藤さんは。)

 

 

なけなしの愛情は全部、近藤勲のためのものだというのに。

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

なんか近藤さんがお父さんみたいになった。(笑)

マイ脳内設定では、銀・ヅラ・高杉・坂本・土方は28歳です。

で、近藤さんは1つ上の29歳。三十路一歩手前が萌え。(死ね)

山崎は21歳だと嬉しい。という希望。

なんでアイツらが28なのかというと、16歳の新八より

銀さんを丁度ひとまわり年上にしたかったからなのです。干支が同じなの。