「出して下さい」
「い・や・で・す〜」
「出せつってんだよ、このマダオ!!」
「嫌だつってんのが聞こえねーのか、このダメガネ!!」
また今日も懲りずに始まった口喧嘩に辟易した表情で神楽はソファから立ち上がった。
「外行くネ、定春。
 こんな会話聞いてたら、脳みそ溶けて腐ってしまうアル」
「腐るってなんだコノヤロー!!」
「テメー神楽!!お前も最近ちょっと調子に乗りすぎなんじゃねーかァ!?
 あんまりナマ言ってっと5枚にオロすぞコラ!!」
「どうやったら5枚にオロせんだよ、不可能だよ!!」
「不可能じゃねぇ、やりゃーできるッ!!」
危うく自分にまで飛び火しかかってきたので、神楽は耳を塞いで大急ぎで万事屋を
出て行った。
もちろん後には定春もついて行く。
階段を下まで駆け下りて、そこで漸く耳から手を離した神楽は、まだ中でいがみ合って
いるのだろう2人向かって思い切り舌を出した。

 

「一生やってろヨ、バーカ!!」

 

 

 

 

 

 

 

口論の発端は、あれほどダメだと口を酸っぱくしていってきたのに
また銀時がパチンコの景品で山ほどお菓子を貰ってきたことにある。
勝った時ぐらいは大人しく金に替えりゃいいのに、この男は甘いもの欲しさに
とりあえず真っ先に持てるだけの菓子を手に入れてしまうのだ。
新八がそれを知ったのは、道端で長谷川と世間話をしていた時だった。
勿体無ぇよなーと笑いながら言う男を前に、あの時は本気で立ちくらみがしていた。
このマダオは、本当の本気でマダオだ。
「だーから、言ってるじゃないですか!!
 お菓子が欲しいなら、言ってくれれば僕が出しますから!!
 だから隠したお菓子は全部出して下さいってば!!」
「オメーに言ったら出てくるのは煎餅がイイとこだろうがよ。
 俺が食べたいのは、そんな年寄りくせーモンじゃねーのッ!!
 チョコとかァ、そういうハイカラなモン食いてーの、銀さんはァ!!」
「おまッ、それ全国の煎餅愛好家達に失礼だろーがァァァ!!
 今すぐ謝れ!!全国の皆さんに土下座しろ!!
 どーせアンタが持ってたら、そのお菓子の山は一晩で無くなるんでしょ!?」
「ハッ、冗談言うなよ!!
 せいぜい持って晩メシまでのつなぎだ!!」
「テメーそれ余計悪いわァァァァ!!!」
ぜえぜえと荒い息を吐いて、新八は心底呆れ返った表情で銀時を見る。
あ、この目は軽蔑してる目だ。
そう思ったが譲れないものは譲れない。
だってここ最近、本当に甘いものを食べてなかったのだから。
「……もういいです、そんなに糖尿になって死にたいなら好きにして下さい。
 そんなに好きなら糖と結婚すりゃいいんだ。そして破滅すればいいんだ。
 僕もう知りませんよ、こんな聞き分けのないでかい子供、面倒見切れない」
「おいおい、ちょっと待てよ。
 聞き捨てならねーなァ、今のは」
「何がですか」
すうっと目を細めて言ってくる銀時に、新八は僅かだが身構えた。
さすがに子供扱いするのはプライドが許さないのだろうか。

 

 

「俺が結婚すンのはなァ、新八だけって決めてんだよ俺はァァ!!」

 

「死にさらせこのマダオがァァァァ!!!」

 

 

そして目を覚ませ。
叫んで繰り出された新八の回し蹴りは、見事に銀時のこめかみにヒットした。

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

テンポの良い会話って難しいですね。

それにしたって、この2人アホですね。(笑)