火事と喧嘩は江戸の華とはよく言ったものだが、元来人との諍いを良しとしない
近藤だって、売られたものすら買わずにいるほど度量のない人間ではない。
そしてなんだかんだで門下に入る事となった土方と行動を共にするようになってから、
喧嘩はスーパーのタイムセール並の大安売りだ。
どちらかといえば近藤よりは土方の方にその比重は傾いていたのだが、結局2人で
いるのだから、例えば大人数のチンピラ侍に囲まれた場合、剣を抜くのは2人同時だ。
「……しかしよォ、トシ。
 お前ってホント……こういうのに好かれてるよなぁ」
「別に好きでやってんじゃねぇ……今はな」
「ざっと見た限りじゃ、30は居るぞ?
 それでもやるのか?」
「敵前逃亡は好きじゃねェんでね。
 嫌ならアンタは逃げればいいさ、別に責めやしねェ。
 用があるのは、どうやら俺の方みたいだからな」
「できるか、そんなコト」
すらりと腰から木刀を抜いて、土方と近藤は背中合わせに立った。
相手は田舎道場とはいえそれなりに剣を振った事のある連中が30人程度、
逆にこちらはたったの2人。
決して有利だとは言えないが。
「……4時から見てぇドラマの再放送があるんでな、さっさとやろうぜ」
「だったら尚更だ、2人の方が早くカタが付くだろ?
 俺も見たいんだよあのドラマ。4時まであと25分しかない」
「そりゃ大変だ、急がねーとな」
くくっと笑いを零して、剣を中段に構えると2人は一度だけピタリと背中を合わせた。
この体温だけが、仲間の証拠。
「味方がアンタ以外にもいたら、却って難儀してたな。
 誰が敵で誰が味方か、こう似たような連中ばっかだと混ざっちまって分からねぇ」
「そりゃ良かった、俺も人の顔と名前覚えるのが苦手でな」
背中越しに近藤が笑ったのが伝わってくる。
顔を見なくたって、いつも一緒にいるのだから大体のことはもう分かる。
相手がどんな事を考えているのか、どんな表情をしているのか。
「トシよォ、お前今、悪い顔してんだろ?」
「生まれつきだ。
 アンタはニヤけてんだろ?」
「……生まれつきだ」
同時に笑い声を上げて、2人は背中を離して敵中に飛び込んだ。
あとは本能のままに剣を振り相手を倒していくだけ。
誰が敵で誰が味方なんて考えなくても良かった。

 

味方は、お互いにたった一人だけなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……終わった終わった」
「げ、トシ!4時まであと10分もないぞ!!」
「マジでか!?
 走るぞ近藤さん!!」
「合点だ!!」
道端に転がった雑魚共よりも、ドラマの再放送の方が重要だ。
大慌てで駆け出した土方の後に続こうとして、足を止めた近藤は一度だけ
振り返って、累々と横たわるチンピラ達を見下ろした。
つまらない馴れ合いでやってきた仲間達なのだろう、剣を交えて戦ってみても、
結局この集団のリーダー格が誰なのかはサッパリ分からなかった。

 

「数だけ揃えりゃあイイってモンじゃねぇ。
 今度はちゃんと、心からの仲間連れて命張って向かってきな」

 

道の先で、近藤さん早くしろー!!と土方が叫んでいる。
次から出かける時はちゃんとビデオの予約をしようと心に決めて、
近藤はチンピラ集団に「じゃあな!」と声をかけて走って行った。

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

普通の話だって書いてみたいわけですよ。

どっちにしろ近藤さんは癒しだ。(え!?)