志村少年の生活は、規則正しい。
朝は7時に必ず目を覚ます。目覚し時計が無くてもだ。
それはもう子供の頃からの持って生まれた習慣なので仕方が無い。

 

坂田青年の生活は、不規則極まりない。
飲みに出た日はもちろんの事だが、大体にして朝食と呼べる時間に
起きられたためしが無い。
一人身である上に自由業である事から、さして起きられなくても不自由は無かった。

 

こんな2人であったから、新八の目覚めが先である事はある意味で当然のこと。

 

 

 

 

 

 

「…………え、アレ?」

目が覚めて身を起こそうとして、身体が全く身動き取れなければ普通は動揺する。
例に漏れず驚いた顔をしたままで新八が瞼を持ち上げると、見慣れない天井が目に入った。
何とか動く左腕を持ち上げて自分を拘束しているものを確かめるように触れば、
それは人間の腕だ。
目を恐る恐る右へと向けて、漸くその正体を知った新八は脱力した。
「………銀さんか…」
びっくりした、と呟いて、正体を知ったことで安堵したのか新八が布団から出ようと
身動ぎをしたのだが。
「う、動けない……」
がっちり銀時の腕が自分を捕まえているものだから、出ようにも出られない。
それどころか逃げようとしてる自分を知ってか知らずか、抱き締めてくる腕が若干
強くなっているような気さえしてくる。
「ちょっと、もう……朝ご飯いらないんですか…?」
元々そんなもの食べる習慣が銀時になど無いことを知らない新八は、困ったように
吐息を零してどうしたものかと考えた。
起こすのも、少し早い気がする。
ごそごそと身を捩って銀時の方を向き、窺うように視線を送ると、完全に寝入っているのか
全くの無反応。
「銀さーん、せめて離してもらえませんかーぁ?」
ぺちぺちと緩く頬を叩きながら言えば、うざったそうにその手を払い除けて、銀時は
更なる惰眠を貪るべく抱き枕にしがみ付いた。
ちなみにこの場合、抱き枕とは新八のことだ。
「う〜ん…………あと5分……」
「5分じゃねぇよ!離せって言ってんのに何コレ、きつくなってんじゃん!?」
「うるっせえ……」
ぎゅうぎゅうと抱きついてきて、終いにゃ五月蝿いとの言葉まで。
これでカチンと来ない方がおかしい。
「銀さん、あんたねぇ……」
叩き起こして説教でもしてやろうかと、声を上げて。
ふと、気が付いたように新八は言葉を区切った。
「銀さん…?」
「……もうちょっと、寝かせろやァ……」
抱きついて離さない腕が熱い。
小さく小さく呟かれた声に含まれているものを感じ取って、新八は仕方無いと
ため息を零した。
こうなったら自分も二度寝をするまでだ。

 

本当、なんなんだろうこの人は。
力強くて頼もしくて、でも頼りなくて、ほんの少し、寂しくて。
だけど、この腕を嫌だと思っていない自分が一番の謎だ。

 

 

 

 

 

 

とりあえず起きたら家で余ってる布団を取りに行こう。
そう決めて、まるで小さな子供に抱き締められたぬいぐるみのようだと思いながら、
もう一度眠った。

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

次に目が覚めるのはどちらだろうか。