「頭が軽い」
「……また随分短くしたな、お前」
床屋から出てきて少し居心地の悪そうに顔を顰めながら言う土方へ、
車で待っていた近藤が思わず苦笑を零した。
確かに切って来いと言いはしたが、そこまでやれと言ったつもりは無かったのだが。
これから幕府のお膝元に入り働く身となれば、やはり身だしなみにも多少は
気を遣わなくてはいけない。
いかにも浪人風情といった風体だった土方は、髪を短くしてしまうことで
また随分と違う印象を受けた。
正直、少し驚いている。
「近藤さん、こんなモンで良いのか?」
「そうだなァ……本当は禁煙もしてもらいたいがな?」
「止してくれ、死んじまう」
「禁マヨとどっちがマシだ?」
「…………。」
助手席に乗り込み腕を組んだまま本気で真剣に悩み出した土方へ、近藤は笑って
冗談だ、と付け足した。
「それだけ豪快にやれば、とっつぁんも何も言わねェさ。
あの隊服もきっと似合うだろう」
「………そうだと良いんだがな」
慣れた着物を脱いでの洋装は、正直少し気乗りしていない。
天人が江戸を半ば乗っ取ったような形で、幕府の中枢を握ってしまったのだから
仕方の無い話といえばそうなるが。
そういえば近藤も、つい最近髪を切ってきた。
だからだろうか、既に隊服を着ている近藤にはさして違和感を感じなかった。
「だが、良かったのか、トシ?」
「何がだよ」
「もう少し残しておいても良かったんだぞ?
あれだけ長かったのに、少し勿体無いな」
「別に、面倒だから放っておいたら勝手にあれだけ伸びちまっただけさ。
それに伸ばしたきゃあ、また放っておけば勝手に伸びんだろ」
「ははは、違いねェな」
言いながら助手席の窓枠に肘をかけ煙草を吹かしている土方を横目で見遣り、
近藤は変わるもんだな、と感嘆の息を零していた。
基本的に和の顔つきをしている土方は、髪を切っても十分に着物が似合う。
スッキリしたせいか浪人という感じは無くなって、着物で剣を携える姿は
どちらかといえば剣客のようだ。
「意外と似合うな」
「……は、何が?」
ぽつりと零した言葉に土方が訝しげな視線を向ける。
言って自分で照れ臭くなったのか、近藤は満面の笑みを浮かべると
誤魔化すようにくしゃくしゃと土方の頭をかき回した。
「うわッ!!
い、イキナリ何やってんだアンタはッ!!」
「いやぁ、男前だなぁと思ってなー」
「な…ッ」
顔に血を昇らせて何も言えず口を開け閉めするだけの土方に、近藤は何事も無かった
かのような表情で、あ、青だ。と呟くと車のアクセルを踏んだ。
動揺したのは、一体どちらだったのか。
<終>
土近は短い文章中にどれだけのものを篭められるかで躍起になってしまう。(笑)