その人は、とんでもないお人好しだった。
他人のイイところはすぐに見つけるクセに、悪いところは見ようともしない。
そのクセ本質をズバリと見抜いて(本人に自覚は全く無いが)、相手が何を
欲しているかを自然と悟り、手を差し伸べることができる。
あの人は、どれだけの人間を見てきただろう。
そうやって救われた手が一体いくつあっただろう。
どれだけの事を、気付いて、知っているのだろう。
この俺の、事すらも。
自分の中にある一体どれだけの事が、思いが、あの人にバレてしまっているのか。
そう考えた時、腹の底が冷えたのを今でもよく覚えている。
あの人は知っているのだろうか。
どれだけ重たいものを抱えているか、そしてその重たいものを
どれだけ大事にしているか。
知っていて、それであんな風に自分に笑いかけてきているのであれば、
あの人は相当残酷だと思う。
自分は何も言わないし、あの人は何も聞かない。
だけど確かに存在している確立された自分だけの場所を、どれだけの思いで
必死に護ろうとしているか、あの人は知っているのだろうか。
いや、きっと本当はひとつも分かっちゃいないのだろう。
だから時折、思い知らせてやりたくなってしまうのだ。
「…………近藤さん、」
布団に横たわり眠る彼に巻かれている、真っ白な包帯。
いっそ血でも滲んでいた方がまだ現実味があった。
無ければきっと、ただ眠っているだけで済んだだろうに。
何も知らないくせに、分かったようなフリをして、
そうして彼はまた自分に思い知らせてくる。
事の重さを、存在の不確かさを、いつ消えて無くなるかしれない、
尊いものの在り処を。
ぞくり、とまた腹の底が冷えたのを感じる。
こんな恐怖、戦場で敵に囲まれたって感じやしないのに。
「怖ぇんだよ……………近藤さん、」
だから早く、目を覚ませ。
<終>
鬼の副長と呼ばれる男も、たったひとつの存在でこうも簡単に揺らぐ。