「お前ら、こんなに拾ってきてどうすんの」

 

山盛りにされた中枢電脳幹のひとつを指先で摘み上げて、零れるのは
呆れたような吐息。
あくまで拾ったと言い張っている傷だらけの子供達は、きょとんとした目で
顔を見合わせるだけだ。
「つーか、どれがたまのかなんて、このままじゃ分かりゃしねぇだろ」
「……だったら確かめるネ」
「そうですよ。
 ひとつひとつ確認していけばいいだけです」
「……そうは言うけどよ、」
それが面倒なんだとか、そういう事が言いたいんじゃない。
やりたいなら、させれば良いだけだ。
自分はめんどくさいからやらないが、この2人なら全部チェックしていくだろう。
それだけ彼らはたまのことが気に入っていたのだから。
仲間だと、友達だと思っているのだから。
だからこそ心配になるのだ。

(……あるとは、限んねぇだろ)

もしひとつひとつ確かめて、その中にたまのものが無かったら。
一体彼らはどれだけ落胆するのだろうか。
それが目に見えて分かるから、想像できるから、本当は気が進まない。
「おい、ちょっと新八」
「……はい?」
ちょいちょいと手招きをして作業場の隅っこの方へ移動してから、銀時は神楽に
聞こえないようにこそりと耳打ちをした。
「お前、本気でたまを元に戻そうとか考えてる?」
「……銀さんだって、頭拾ってきたじゃないですか」
「イヤそれはお前……なんつーの、記念品みてぇなモンだよ」
「嫌な言い方しないで下さいよ」
「だからそういう事が言いてーんじゃなくてだなァ、その……つまり、」
「……銀さん、アレはね。
 アレは……僕と神楽ちゃんが方々を駆けずり回って集めた全部なんです。
 つまり、僕達が見つけることのできた全部なんです。
 だからもしもあの中にたまさんの物が無ければ……それは仕方の無いことで、
 そうなったら諦めようねって、神楽ちゃんとも話はしてますよ」
「新八、お前……」
銀時の言いたいことなど、気遣っていることなど既に知っていた風で、
新八は少し離れた所で電脳幹を弄っている神楽に目を向けた。
「可能性の話ですよ、見つかればいいなっていう。
 けど……何もしないで最初から諦めるよりは、ずっといいでしょ?」
「それじゃあもうひとつ、たまを元に戻してそれで……どうするんだ?」
「どうって……」
「もう、作ってくれた親も仲間だったロボットも何もねぇ。
 息吹き返したところで、アイツは一人ぼっちだぜ?」
「それは……、」
途方に暮れたような目で新八は銀時を見上げる。
けれど此処は譲れない、なあなあで済ませて良い話ではない。
たまを単なるロボットじゃなくて、一個体として認めるならば。

 

「たまさんは、一人ぼっちなんかじゃないですよ?
 僕も神楽ちゃんも、銀さんだっているじゃないですか。
 平賀さんだってきっと気にかけてくれる筈です。
 紹介すれば、お登勢さん達だって仲良くしてくれますよ。
 ……僕達の周りは、アクが強いけど温かい人達ばかりじゃないですか」

 

ね?と逆に言い聞かせられるように言われ、観念したように銀時は頭を掻いた。
もはや何を言っても新八には通じるまい。
いや、それ以前にこっちが言い負かされそうだ。
「……じゃ、そういう事でいいんだな?」
後の面倒はちゃんとお前達で見ろよ、という言葉に今度は新八が少し項垂れる。
コロコロと表情が変わって忙しい子だ。
「なんだよ、急に」
「いえ……銀さんは納得してくれてるのかなぁって…。
 結局、僕達の身勝手じゃないですか。
 たぶん、銀さんはそこまでしようとは考えてなかったんでしょ?
 だから……」
「バーカ」
項垂れたままで言う新八の額を指先でピンと撥ねて。

 

 

「俺はお前がそれでいいってんなら、それでいいんだよ」

 

 

選択もさせてくれなかったクセに、最後になって殊勝な事を言うんじゃねェよ。
額を押さえて唖然としている新八にのんびりそう言いながら背を向けて、
銀時は神楽の元へと歩いて行く。
その背中へ新八が強烈なタックルをかましたために、そのままの勢いで2人は
電脳幹の山に頭から突っ込んでしまった。
何バカな事してるアルか、なんて憮然とした表情で言う神楽に、銀時と新八は
視線を合わせ、そして苦笑を浮かべる他に無かった。

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

銀さんと新八の組み合わせはバカでラヴで楽しい。