< 一期一会 〜夢幻の住人〜 >

 

 

 

 

 

「疲れてんのかなァ」
「歳のせいじゃねぇですかィ?」
「……俺、トシより年上なんですけど!?」
さらりとした沖田の答えに、近藤が思わず苦笑を覗かせる。
ここ最近、土方の様子がおかしいような気がするのだと沖田に言ってみた、
その返事がコレだ。
沖田に言ってみたのは他でもない、自分と同じくらい長く土方の傍に居たのが
彼だったからという、そんな理由なのだが。
「まァ、少し食が細くなったような気はしやすねィ」
「だろ?」
「俺の取り分が増えて、大変喜ばしいことでさァ」
「……おいおい」
自分達より一回り近くも下でまだまだ成長期の沖田は、細身の身体とは裏腹に
それなりによく食べる。
気を抜けば自分の皿の上にあった筈のものが消えるので、近藤も自分の取り分を
守るのに結構苦労しているのだ。
「環境が変わって、眠れなかったりすんのかなァ」
「アレがそんな繊細なタマですかィ」
「いやホラ、枕が変わると眠れなくなるようなの、あんだろ?」
「俺ァあの人が鼾かいて寝てない姿を見たことがありやせん」
切って捨てるような沖田の発言に、近藤の口元が思わず笑みの形を象った。
どうやら一応、これで沖田は自分を気遣ってくれているらしい事が分かったからだ。
土方を心配する自分に、大丈夫だと。
「……何かあるなら言ってくれりゃイイのになぁ」
「そりゃぁ……」
言いかけて、そこで沖田は口を噤んだ。
自分も同じように近藤を慕う身だ、土方の取る行動の理由など手に取るように分かる。
あの男のことだ、それで近藤に心配をかけさせまいとしているのだろう。
それこそが余計なお世話だと、言えば近藤はそう言って笑い飛ばすのだろうが。
「そんなに気になるなら、土方さんに訊いてみれば良いでしょう?」
「……そういうわけにはいかんさ」
「どうして」
「アイツは言いたくなったら自分からちゃんと言うよ。
 変に気を回して尋ねたところで、トシが言いたくねぇのなら大丈夫の一言で
 終わっちまうさ。
 しつこく訊いたら、余計なお世話だって怒鳴られちまうし」
「………バカですねィ」
「ええッ!?
 そんな呆れた風にきっついコト言わなくても良いじゃん!?」
はぁ、と重苦しいため息をついて、沖田は付き合ってられるかと縁側に寝転がり
アイマスクをつけてしまう。
話を聞く気が無くなったのはよく分かったが、それなら働けと言いそうになった
口を押さえて、近藤はやれやれと肩を竦めた。

 

 

 

 

 

 

様子がおかしいなという事はすぐに分かった。
これでももう10年近くの付き合いになるのだから、土方の表情ひとつで
ある程度の事は理解できてしまう。
それは近藤だけでなく、沖田も同じだ。
けれど本人が言いたくないというのなら無理に詮索するのは野暮というものだし、
そこは心配する気持ちを押さえつけてでも土方を尊重してしまうのが、この2人の
在り方だった。
だが、とアイマスクを指先で少し持ち上げて、作業に戻った近藤の背中を見遣りながら
沖田は思案するように小首を傾げる。
調子が悪そうだ、と一言で言ってもどうやら体調不良の類では無いと思う。
そういう事ではなくて、もっと、どこか切迫したような。

 

(……まァ、それで土方さんがくたばるなら、俺ァそれでもいいけど、)

 

それで近藤が泣くのはちょっと嫌だなァと考えながら、沖田は再び目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

<続>

 

 

 

 

 

近藤さんと総悟。

何も言わなくても大体のことは分かってしまう。

近藤とトシも、近藤と総悟も、そしてトシと総悟も。

そんな間柄が理想だな。