それは、黄昏時のこと。
姉に手を引かれ歩いていた総悟は、それに気がついて足を止めた。
「姉ちゃん」
「どうしたの、そーちゃん?」
「姉ちゃん、あの橋……真っ赤です」
指差した先には、夕日を浴びて赤く染まったように見える橋。
同じように足を止め、それを見つめたミツバはああ、と優しく声を零した。
「そーちゃん、あの橋は今、渡っちゃあダメよ?」
「どうしてですかい?」
「昔からね、この橋が赤い時間は、神様のお通りになる時間だと言われているの」
「……へぇー…」
「あの橋の向こうは、突き当たりに小さなお堂があるだけだけれど、
 この時間に橋を渡ると……違うところに辿り着くと言われているわ。
 だから、村の人達は橋が赤くなくなるまで待ってから渡るんですって」
「…違うところ?
 神様のおうちですかィ?」
「うふふ、そうかもしれないわね。
 さぁそーちゃん、帰りましょう」
「へい」
姉に優しく手を引かれて、総悟も止めていた足を再び動かし始めた。
ちらり、と首だけを動かして、夕日に照らされた橋を見遣る。
赤く染まった橋を、少しだけ綺麗だと思った。

 

 

 

 

< 一期一会 〜神様の橋〜 >

 

 

 

 

「おい、そっちだ!!」
「追え!!」
ばたばたと数人の走る音を耳で捉え、総悟は一心不乱に道場目指して駆けていた。
どうして自分がこんな目に逢っているのか、思い出すだけで腹立たしい。
土方がどこぞでふっかけた喧嘩のとばっちりが、こちらにも及んでいるのだ。
村の荒くれ共はみんな、土方を目の敵にしている。
それもこれも、道場に来る前の土方があちこちで喧嘩ばかり繰り返して
きたせいだ。

(……土方のヤロー………絶対ぇブッ殺す……!!)

胸の中だけでそう毒づいて、総悟は小さく舌打ちを零した。
前の師範から近藤が道場を受け継ぎ、同時にその道場に身を置く事を決めた
土方を狙った殴り込みや一方的な言いがかりによる喧嘩は、今もなお続いている。
しかも土方だけでなく、彼を匿っているからとして近藤や総悟なども標的に
されていた。
そして今、この現状である。
土方に対する殺意が湧いても仕方無いと言うべきか。

 

 

 

 

 

 

道場へ向かおうとしていた足は、方々からの相手に追い詰められるように
村の外れまでやってきてしまっていた。
草木を分けるように草むらから道端へと抜け出して、総悟は思わず声を上げる。
「しまった……こんな所まで来ちまったか」
目の前には古い一本の橋、その向こうはお堂があるだけの行き止まりだ。
どうしようかと悩む耳に通りの左右から怒声が聞こえ初めてきた。
現状で追い込まれているのは、どうやら自分の方のようである。

(まいったな……こうなりゃ、あそこで迎え打つしかねェか……)

そこでなら、思う存分暴れても迷惑はかけないだろう。
喧嘩はしてくれるなよと近藤から耳にタコができる程聞かされているが、
今は場合が場合だ、バレたら正当防衛で済まそうと思う。
「………行くか」
木刀を持った男達の姿が見えて、総悟はこうしてはいられないと橋へと向かって
駆け出した。
まだ幼かった頃に姉から聞かされた話など、今は少しも思い出すことはない。

 

 

橋は、夕暮れの光を浴びて、真っ赤に染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

<続>

 

 

 

 

総悟祭第1夜。(笑)

けっこう前から書き始めてはいたものの、なかなかアップするに至らず
グズグズしてた所を後押し受けまして公開することにしました。
基本的に総悟ばっかりの話なので、丁度総悟の誕生日もくることですし
それに便乗してみました。

妖怪モノ大好きな自分の好み満載なんですが、まァそこは流して下さい。(笑)