#32 終焉の白

 

 

 

 

 

「………近藤さん」
「近藤さん、帰りやしょう」
左肩の出血を片手で押さえた土方と刀を鞘に収めた沖田が、ゆっくりと
跪いた近藤の傍へと歩み寄って声をかける。
けれど、近藤は動かなかった。
すぐ足元には、纏ってくれる相手を失くして抜け殻のように残された着物。
それこそほんの一欠片も残すことは無く。

 

「骨ぐらい残してくれたって良かったのになァ……」

 

自分の刀が相手の心臓を捉えた瞬間、跡形も残さずその姿は消えてしまった。
刹那に垣間見えたのは、塵となって消え行く姿。
だがそれもほんの僅かの間で、一陣の風が通り抜けると同時にそれさえも
儚く消え失せてしまった。
ほんの一欠片でも存在した証が残ってくれていれば、手厚く弔うことも
できたのに。
「何言ってんだ、近藤さん」
「トシ…」
「アンタ、さっき言ったじゃねぇか。
 全部引き受けて背負って行くって言ったじゃねぇか。
 言葉通りに、ソイツはアンタの背中に乗っかってるさ」
「…………。」
「アンタが気に病む必要はねぇ。
 これから先、今までと変わらず真っ直ぐ立って歩いて行くなら、
 後悔してやる必要だってねーよ」
「………だが…」
「ま、同意するのは気が進まねぇが、土方さんの言う通りでさァ。
 辛ぇ道程かもしれやせんが、俺達も一緒にお供しやすから」
「総悟…」

 

 

 

 

 

(局長、)

 

 

 

 

 

 

ふいに呼ばれた気がして、近藤が空を振り仰ぐ。

東の空から少しずつ侵食してきた藍色が、夕焼けの赤を塗り潰そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、近藤さん達は屯所に戻ったんですか?」
「おー、散らばってる隊士にも連絡取って呼び寄せるってよ。
 直に真選組もいつも通りに回り始めるだろ」
「そうですか……」
帰って来るなりソファに倒れ込んだ銀時から事の顛末を聞いて、新八はホッと
胸を撫で下ろした。
何とか一件落着となりそうだ。
「で、銀ちゃん、報酬は貰ったアルか?」
「あー……後でな」
「どういう事ですか?」
「後で目一杯タカりに行くぞ、おめーら」
「…てコトは貰ってないアルな」
「は〜…ほんっと、この人は……」
「うるせーぞー」
顔を見合わせて大仰なため息を吐く新八と神楽を恨めしそうに見上げて、
銀時は心底疲れきった表情で目を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

−続−

 

 

 

 

 

 

 

僕らはずっと、歩き続ける。