#28 眩い黄色
携帯電話の通話を切って、沖田は剣を交える2人に視線を送った。
片方は銀髪天然パーマの男、もう片方は自分の大将に酷似した、何か。
暫くは電柱の影から成り行きを見守っていたが、どうも雲行きが怪しい。
どちらかと言うと押されているのは万事屋の方だ。
偽物だと分かってはいても、顔も声も動きすら本物に近いそれに、
どうあったって本気で打ち込めないというのは、沖田自身にとっても
よく分かる事であり、また仕方無いことだとも思っていた。
そして、近藤という男が本気でかからないと仕留められる事ができない
レベルの男であることも、よく分かっていた。
太刀筋も、動きも、本物の近藤によく似ている。
これを倒すには、同じ剣で戦うには些か分が悪い。
「……て事ァ、もうこれしかねェってことか」
にまり、と口元に笑みを乗せて沖田は何処からか取り出したそれを肩に担いだ。
斬れないなら、吹っ飛ばしてしまえばいい。
電柱から一歩通りへ出てきた沖田に目をやって、銀時はぎょっとした
顔をする。
沖田が肩に担いでいるのは。
「え、ちょ、おまッ、なんでバズーカ持ってんのォォォ!?」
「避けて下せぇよ、旦那!」
「いやいやいやムリムリムリ!!無理だってェェェ!!
お前、この状況見ろよ総一郎くん!!」
「残念、」
俺の名前は総悟でさァ。
刃と刃を交えている2人に狙いを定めると、沖田は迷わず引き金を引いた。
「………トシ」
「ああ、行くか」
沖田からの電話が切れた後に、近藤と土方は顔を見合わせて頷くとソファから
立ち上がった。
もう一人の近藤の居場所は此処からそうは遠くない、走ればものの5分ほどだ。
銀時と沖田が足止めをしてくれている内に辿り着かねばならない。
それぞれが腰に己の得物を差して、その足で玄関に向かう。
「近藤さん!」
「ゴリー!!」
ぱたぱたと軽い足音がしたのに靴を履きながら近藤が振り返ると、どこか心配そうな
表情をしたままの新八と神楽が立っていた。
ととと、と軽やかな音がして、後から定春までやってくる。
もの言いたげな2人と1匹を順繰りに見遣って、近藤は苦笑を浮かべると順番に
その頭を撫でつける。
「悪いが、お前達は連れてけないぞ。
連れて行ったら俺が万事屋に怒られちまう」
「でも……」
「万事屋なら大丈夫だから、心配すんな」
土方が横からぽつりとそう口を出し、近藤はそれに頷いてみせた。
「ゴリー、……最近、アネゴが元気無いアル。
もしかしなくてもお前のせいアルか?」
「……え?」
「昨日の夜、姉上が九兵衛さんと一緒に帰って来てから、ずっと塞ぎ込んだ
ままなんです。
僕が理由を聞いても、大丈夫、何でもないからとしか言ってくれなくて…。
でも、何となくですけど……僕にも原因が分かった気がするんです」
「…………。」
「約束するネ、ゴリー!!
何が何でもニセモノやっつけて、此処に帰って来いヨ!!
絶対アル、約束しろコノヤロー!!」
「…………だとよ、近藤さん」
肩を竦めて告げてくる土方の隣で、近藤はじっと必死に訴えかけてくる子供達の
姿を見つめる。
握り締めたままだった両手を神楽と新八の頭に伸ばし、ぐしゃぐしゃと掻き回すように
撫で付けて、漸く近藤は双眸を細めるようにして、笑った。
「約束するよ」
行ってくる、と言って玄関を出た2人の背中を立ち尽くしたままで子供達は見送って、
階段を駆け下り走って行く足音が消えた頃に、新八はちらりと神楽の方へと視線を向けた。
「………神楽ちゃん」
「煩いメガネ」
「神楽ちゃん、大丈夫だから」
近藤がしたように、新八は隣に立つ少女の髪に手を伸ばし、そっと優しく撫でる。
ぎゅっと唇を噛み締めたままで神楽は俯く。
ぱたり、と木張りの床に雫が落ちた。
「大丈夫だから神楽ちゃん、泣かないで、ね?」
優しく撫でてくるさっきより一回り小さな掌に負けて、神楽はその場に蹲った。
微かに聞こえてくる嗚咽に、ほんの少し辛そうに眉を顰めて新八も神楽の
隣に座り込む。
くぅんと気遣うような鳴き声を漏らして、その2人の背に定春が擦り寄った。
−続−
無事に、戻って来て下さい。