#23 希望の橡

 

 

 

 

 

厠へ行こうと廊下を通りかかったら、玄関に佇む新八を見かけた。
用を足して戻って来てみればまだ彼が其処に居たので、気になったから
何となく声をかけた。
「新八、お前なにしてんの?」
「銀さん……いえね、ちょっと、考え事を」
「ふぅん?こんなトコロでか」
「さっき山崎さんが外に出るのを見送ってたんですけど、」
脱ぎ散らかされた状態だった靴を一足一足揃えて並べながら、
銀時の問い掛けに新八は小さく笑いを零す。
さっきまで確かにあった筈の胸のモヤモヤが、気がついたら無くなっていた。
「ねえ、銀さん。
 銀さんは……近藤さんを見つけたら、どうするんですか?」
「あー?
 さァてね……それは見つけてからじゃねーと何とも言えねぇな。
 けど、とりあえず真選組のバカ共を追い出して、平穏を取り戻してーよ」
「怒ってたりとか、しないんですか」
「……いやァ、それがさ、自分でもよく分かんねーんだわ。
 って、何でそんなコト訊くわけ?」
「さっき……山崎さんとね、少し近藤さんの話をしてたんです」
あの時自分が聞いた話は、意外と言えば意外ではあるが、近藤らしいなと
思う気持ちも確かにあった。
そしてそれ以上に、どれだけ彼らが近藤という男を大切にしているのか
痛いほどに伝わってきて、新八の中に湧いたのは近藤勲という男に対する
興味だった。
あれだけてんでバラバラの個性で、纏まりなんて全くないように見えるのに、
近藤の存在ひとつで彼らはいとも容易く繋がってみせる。
自分なんかはきっと少しも踏み込める余地なんて無いのだろう、そんな世界を
ほんの少しだけ、羨ましいと思った。
「…僕はね、銀さんや神楽ちゃんに危ないことはしてほしくない。
 だけど……近藤さんを助けたいって気持ちは、ちゃんと持ってるんですよ。
 何があったか知りたいと思うし……全部丸く収まったら、」

 

 

もう一度見ることができるだろうか。

確かに繋がっているだろう、彼らの『絆』という名の糸を。

 

 

「ねぇ銀さん、次に出る時は僕も一緒に連れて行って下さい。
 僕も、あの人達の力になりたいです」
「………ぱっつぁんよォ」
がりがりと頭を掻いていた銀時は、だるそうにそう声を出すと後ろから
新八の体を腕の中へと抱き込む。
わあッ、と驚いたような声が上がったが、それには全くお構いなしで。

 

「連れてくのはイイけど、アッチに行くのはお父さんが許しませんよ?」

 

うっかり真選組の連中に惚れ込んだ新八が、入隊すると言い出しては
たまったもんじゃない。
そう思って先に釘を刺しておけば、誰がお父さんだよとうんざりしたような
声でツッコミが入って。

 

 

「僕は、ずっと銀さんの傍に居ますよ。当たり前でしょう?」

 

 

笑いの含まれた声で返って来た言葉に、銀時はホッとしたように吐息を零した。

 

 

 

 

 

 

 

−続−

 

 

 

 

 

 

 

そして少年は、戦いを決意する。