#12 物憂げな藍

 

 

 

 

 

昼過ぎになって、昼飯昼飯ー!!と騒ぎながら帰ってきたのは神楽と定春、
そして程なくして銀時も戻って来た。
食事は当番制であることから、そのままの足で台所へ向かった銀時の背中を
ソファに座ってお茶を啜りながら新八が見送っていると、程なくしてソファから
むくりと起き上がる体があった。
「おはようございます、沖田さん。
 食事時に目が覚めるなんて、ちゃっかりしてますね」
「こういう商売してると、食える時に食っとかないと、気がつきゃ
 食いっぱぐれてる、なんて事がザラでね」
「んなコトよりお前、さっきからなんかチカチカ光ってるネ。
 電話なのに音鳴らないネ、壊したアルか?」
「壊してねーよ、うるせーから音消ししてあるだけでィ」
「……それ電話の意味ないんじゃあ…」
神楽が指差したテーブルの端には、沖田の携帯が置いてあった。
今それは着信を知らせている。
神楽が言わなければ誰も気付かないところだった。
手を伸ばして電話を取った沖田は、少し訝しげな顔をして通話ボタンを押す。
「なんでィ山崎、ちゃんと始末はつけたんだろうな?
 ……あ?何言ってるか全然わかんねーよ、つか喚くなっての、
 俺の鼓膜が破れるだろうが。
 だから、何が…………なに?」
沖田の持つ電話の向こうから、何やら必死な山崎の声が漏れ聞こえてきている。
残念ながら何を言っているかまでは、新八や神楽には分からない。
頭が痛ぇなあ、なんて考えながら沖田はあくまで己のペースを乱さず言い放った。

 

「ああ、バレちまったモンは仕方ねェや、何とか誤魔化しとけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長ォォォォ!!!」
ガラっと引き戸を乱暴に引いて飛び込んで来たのは、ほんの30分程前に
死刑宣告のような事を言われた山崎本人だ。
ちなみに万事屋一家と沖田は昼食の真っ最中で、全員がモグモグと口を動かしながら
唐突な乱入者の方へと視線を向ける。
「おいジミー、飯中ぐらいは静かにしろよな、っとによォ」
「まったくでィ、これも全部土方のヤローの教育が悪いせいだな」
「他人のせいにしてんじゃねーヨ、真選組の教育が悪いネ」
「んだとチャイナぁ、ぶっ飛ばされてーのか」
「やれるもんならやってみるネ」
「ほらほら2人とも、喧嘩してるとこのおかず僕がもらっちゃうよ?」

「「 取ってんじゃねーよ、このダメガネが!! 」」

「ちょっとなんでそこだけ綺麗にハモんのさこの2人!?」
「ああもういーからよ、さっさと食っちまえよ新八、片付かねーだろが」

 

 

「………って、呑気にメシ食ってんじゃねェェェェ!!!」

 

 

食事の手を止めようとしない面々に、痺れを切らしたように山崎が怒鳴る。
そのままズカズカと大股で歩み寄ると、じとっと沖田の方を睨みつけた。
「ああチクショー、よく考えたら朝方まで放置しててなんもかんも
 バレない筈がなかったんですよね、まだマスコミに報道されてないだけ
 儲けモンでしたよ、どうすんですか隊長!?」
「ヤツらには……なんて言って誤魔化したんでィ?」
「局長捜索で手薄になってるところを、負傷した副長を狙っての攘夷浪士の襲撃、
 そういうことにしておきました。
 自分と沖田隊長のことは副長を連れて屯所を脱出、某所に潜伏中とだけ。
 場所は………言わない方が良かったでしょうから」
「ふん、山崎にしちゃァ考えたじゃねーか」
「けどやっぱり覆面警察週間は無茶かと」
「バカヤロー、そこが一番重要なんだろうが」
「いやでも局長も副長も不在の状況で、いきなりソレはやっぱ無理があるって!!」
沖田の隣に腰掛けて訴えるように報告をする山崎の前に、ご飯をよそった茶碗と
お箸が置かれ、慌てて置いてくれた新八の方へ頭を下げる。
「……どっちにしたって、いなくなった近藤さんを捜索するなら隊服じゃない方が
 いいと思いますよ?」
「まァな、隊員総出で大将捜してんのがバレたら、それこそ大事じゃねぇの?」
「ああそうか、その手があったな。
 よし山崎それで行け」
「結局俺かよォォォォ!!!」
新八と銀時の言葉を受けて頷くと、沖田はそう言って山崎の肩をポンと叩いた。
あくまで自分ではどうこうしようという気が無いらしい。
それを知って山崎は、本気で真選組を辞めてやろうかと脳裏を過ぎらせた。

 

 

 

 

 

 

 

−続−

 

 

 

 

 

 

 

いつもの調子でいられるということは、まだ絶望していないということ。