#11 沈黙のグレイ

 

 

 

 

 

「……まァつまり、正直なところ俺らにもよく分かってねぇところが
 殆どなんですがね」

 

そう締め括って、沖田はぽつりと吐息を零した。
今この場に居るのは銀時、新八、そして起きてきた神楽と、沖田の4人。
山崎は屯所の方の後始末がてらに様子を見てくると、私服に着替えて出て行った。
「ふぅん……あのゴリがねぇ……」
「何だか、信じられないんですけど……」
「俺だって信じちゃいやせんぜ。
 けど…イキナリ刀抜いて斬りかかってきたってのは真実だ。
 だとすれば、何か理由があるに違いねェ」
「でもそれが分かんねぇ、か…」
「土方のヤローの目が覚めれば、或いはもう少し詳しい事まで
 分かるのかもしれねェが、あのザマだァ」
「使えねェな」
「いっそトドメ刺しちまいてェや」
銀時の言葉に心底憂鬱そうな表情で沖田がため息を吐く。
やろうと思えば今こそ絶好の機会に違いないが、それでも近藤に頼まれた以上、
そういうわけにもいかない。
連れて逃げろと、そしてその先は言わなかったが、恐らく生きろと
彼ならばそう言うのだろう。
「近藤さんがいなきゃ……意味ねェのになァ」
「あ?」
「……とにかく、屯所の方は山崎に任せましたし、旦那方にこれ以上手間を
 かけさせようって気もありやせん。
 ただ、土方さんは目が覚めるまで其処に置いてやってもらえませんかねィ?」
「オメーはどうすんだよ」
「俺も……少しだけ休ませてもらって、またすぐに此処を出やす」
「捜すのか?あのゴリを」
「……そういう事でさァ」
呆れた顔で問うてきた銀時に、沖田はそう答えて笑った。

 

 

 

 

 

 

話の後、4人で少し遅めの朝食を済ませ、沖田は少し寝るといってソファで
横になっていた。
神楽はいつも通り定春と遊びに行くと言って出て行き、銀時も少し出るわと
新八に留守を任せ外に行ってしまった。
特に明確にはしていなかったが、2人ともきっと近藤を捜しに行ったのだろう。
とはいえ江戸は広い、ふらっと消えてしまったのであれば見つけ出すのは
困難だろうと思われる。
新八は朝食の後片付けと掃除洗濯という普段と同じ雑用をこなし、時折ひょこりと
沖田の様子を覗き見たりしていたのだが、余程くたびれていたのだろうか、
一向に目を覚ます気配は見られなかった。
しっかりと愛用のアイマスクもしているから、きっと爆睡なのだろう。
「沖田さんも呑気だなぁ……いいのかな」
やれやれと肩を竦めて掃除機を片付けてくると、一段落したついでに今度は
土方の様子を見ることにした。
襖を開けて和室の中を覗くと、来た時に乱暴に寝かされたままの状態で
全く身動きすらした痕跡がない。
「………い、生きてるよね?死んでないよね、コレ?」
思わず苦い表情で呟くと、新八は中に入って土方の傍に膝をついた。
寝かせるにしたって体は半分畳にはみ出しているし、枕もどこか遠くにいったままだ。
いくらなんでもこれはあんまりだろう。
「よいしょっ、」
担ぐことはできないので何とか転がして土方の体を布団の中に収めると、
掛け布団を被せるために一度それを持ち上げる。
その一瞬、目に飛び込んできたのは着流しの下に巻かれた白い包帯だった。
「これが……近藤さんに、斬られたところ……」
沖田が居て、土方の面倒まで見ているこの状況で、今だにそれだけが信じられない。
色々な出来事があって、公の彼らも私の彼らも一応だが知ってはいる。
近藤は仲間を傷つけるような人間ではない筈だし、例えそうでないとしても、
少なくともいつも共に居る彼らにだけは、絶対にこんな事はしないだろうと
断言したって構わない。

 

(……早く起きて、これは違うんだって、そう言ってくれれば良いのに)

 

陰鬱な吐息を零しながら、新八はそっと掛け布団をかけてやったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

−続−

 

 

 

 

 

 

 

ささやかな望みすら、今は叶わぬというのか。