#06 鳴り響いた黄
血塗れの土方が発見されたのと同じ時の頃、夜のかぶき町をのんびりと闊歩していたのは
万事屋の主、坂田銀時である。
スナックや居酒屋が建ち並ぶ界隈とは違い、同じ町内ながらも万事屋のある通りは
なんとも静かなものである。
とはいえ自分が部屋を借りている所も一階は居酒屋であったりして、まったく人気が
無い、という程でもない。
だから今、この通りに自分以外の人間が居ても、何らおかしい事は無い筈なのに。
「……何やってんの、ゴリさん?」
ぽつんと立ち尽くすようにしてそこにいた見知った人の姿に、ほんの少し銀時の眉が
訝しげに寄せられた。
だって、おかしいじゃないか。
(……お妙の居る店があるワケでもねぇのに、しかも腰巾着を一人もつけずに…?)
銀時がかけた言葉に返事は無かった。
ただ感じた肌に刺さるような殺気、そして血の臭い。
咄嗟に腰に差した木刀へ手をかけたのは、もはや条件反射と言って良かった。
「うぉーい、新八ィ〜」
「はいはいはい………って、どうしたんスか銀さんッ!?」
今日は泊まると言っていた新八を玄関先で呼び寄せておいて、壁に凭れ
座り込むようにした銀時が、しくじった、と呟いた。
「ぎ、銀さん、何やって来たんですか、この怪我…!!」
「いやァ、見た目ほど酷くねェよ?致命傷は避けたから。
とにかく血ィ止めるモン持って来てくれよ」
「ちょ、ちょっと待ってて下さい!!」
一通り銀時の様子を見た新八は、救急箱を取りに大慌てで部屋の中へと入っていく。
少年が戻るのを待ちながら、銀時は先刻までのやり取りを脳裏に浮かべていた。
油断したのは、間違い無くこちらの方だ。
「まさか……あんなに強ぇとは思わなかったからなァ……」
何ヶ所か斬られたが、何とか近藤を牽制して、撒いて逃げ帰って来たのだ。
あまりに突然だったから、理由も何も訊ねる余裕なんて有りはしなかった。
「しっかし……なんでイキナリ刀向けられなきゃなんないワケだよ。
俺、なんかしたっけかなァ……」
「誰にやられたんですか?」
「うをっ!?
なんだ新八かよ、驚かせんなよなァ」
「驚かせたつもりなんてありませんよ。
……何があったか、訊いてもいいですか?」
「訊いてもいいけど俺が答えるとは限んないよ?」
「………いじわるだなァ」
「ちょっと厄介ごとに巻き込まれちまったみてぇなんだけどよ、
ハッキリしてない事が多すぎてな、俺にも説明できねェのよ。
今は……何も訊かねぇでくれや」
「………でも、」
腕の切り傷にガーゼを当てて包帯を巻きながら、新八が心配そうな表情で
銀時を見上げる。
その柔かな黒髪の上に手をおいて、ぽんぽん、と優しく2度叩いた。
「だーいじょうぶだっての、心配すんな。
もうこんなヘマしねぇし……必要そうならお前らの手だって借りるからよ。
まだ…俺にも何がどうなってんのかサッパリ分かんねーんだ」
「絶対ですよ?
一人で無茶はしないで下さいよ?」
「……おう、絶対な」
にんまりと笑みを浮かべて答える銀時に、漸く新八は肩の力を少しだけ抜いた。
−続−
巻き込まれたと自覚するにはまだ早く。