#05 見失った青

 

 

 

 

 

鈴虫の鳴く庭に面した縁側に座りながら、何をするでもなくぼんやりと
沖田は外を眺めていた。
暗闇にはすっかり目が慣れて、其処此処で虫達が飛んだり跳ねたりしているのを
視線だけで追う。
何をしているのかと訊ねられたら、別に何もと答えただろう。
やる事があるわけじゃない。ただ待っているだけだ。
土方が近藤を連れて帰って来るのをただ、待っているだけ。
それにしたって随分遅い。
「ったく……土方のヤローは何やってんでィ。
 まさか近藤さんをどっかに連れ込んでるワケじゃねーだろうなァ……」
だとしたら百回ぐらい殺さなきゃ気が済まない。
ふぅ、と何度目か知れないため息を吐いていると、唐突に玄関先で大きな
ざわめきが立ち上がった。
「………何でィ」
騒々しいったらありゃしない。
局長も副長も留守の今は自分がしっかりせねばなるまいと、沖田はゆっくりと
縁側から立ち上がった。
己の部屋を通り抜け廊下に出たところで、余程慌てているだろうか何度も
転びそうになりながら走ってくる山崎とかち合う。
「沖田隊長、大変です!!」
「何でィ山崎、そんな慌てといて大した内容じゃなきゃァ切腹だぜィ?」
「大変なんですよ!!副長が…ッ!!」
「死んだのか!?」
「まだ死んでません!!でも、死にそうなんです!!」
「………は?」
意味が分からないと眉を顰めている沖田の腕を取ると、とにかく来いと
山崎は来た道を玄関へ向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隊士に走らせ連れて来た医者に言わせれば、命にはどうやら別状は無いらしい。
ただ出血が多かったので、当分安静にしていることが必要だということだ。
それを聞いて、布団に寝かせている土方を取り囲むように座っていた隊士達は
揃って安堵の息を漏らしていた。
目が覚めたら痛むだろうから飲ませなさい、と痛み止めの薬を出した医者に
丁重に礼を言い隊士にまた送らせると、沖田は土方の枕元に胡座を掻いて座り込む。
その向かいには神妙な顔をした山崎もいた。
「………とにかく、命があって良かったですね、沖田隊長」
「土方のヤローの事はどうでも良いんでィ」
「え…?」
「近藤さんは…」
「局長ですか?」
「土方が転がってた場所に、近藤さんは居なかったのか」
「発見した隊士によると……そうらしいですね」
「スナックには?」
「問い合わせましたが、随分前に副長と一緒に店を出たって……」
「………ヤロゥ…」
ギリ、と強く歯を食い縛って沖田が目を覚ます気配の無い土方を睨みつける。
なんて、なんて無様な姿なのだろうか。
近藤一人放り出して、何を血塗れになって寝込んでいるのだ。

 

「まったく情けねぇ副長だ。
 近藤さんの身に何かあったら……てめェの首斬り落としてやらァ……」

 

「捜しに行くんですか、沖田隊長」
「闇雲に走り回ったって仕方ねぇだろ。
 外は他の連中が見回ってくれてるし……俺は近藤さんが帰って来るのを待つさ」
「……無事でいるといいんですけど……」
「無事に決まってんだろーが、殺すぞ山崎コノヤロー」
ぐっと袴の裾を握り締めて呟く沖田を眺めながら、そういえば彼は自分より
年下なんだった、と改めて山崎は思い知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

−続−

 

 

 

 

 

 

 

 

真実を知った時、彼らはどうするのだろうか。