「ビクトールさんは、フリックさんのなんなんですかッ!?」


………いや、なんなんですかって言われても。









はふ、と酒場のテーブルに肘をつきながらため息をつくのは
言われた本人だ。
ちなみに言ったのはフリックの半ストーカーと化しているニナである。
昼間、ニナの接近を敏感に察知したフリックが何処かへと姿を消し、
少しばかり後に現れたニナがフリックを見失ってキーキー喚いているのを
笑いながら眺めていたら、それに気付いたニナがビクトールに向かって
そう言い放ったのだ。
恐らくニナの焼きもちの対象は、男だろうと女だろうとフリックの傍に
居る人間全てに向けられているのだろう。
けれど、それにしたって。




「……で、さっきからその辛気臭い顔は何なんだよ」
「あ?あー……別に」
「別にって顔じゃないだろ。
 なんか、酒がまずくなるんだが」
「じゃ、見なきゃいい」
「そういう問題じゃないだろう」
そんなビクトールの向かいで同じように酒を煽っているのは
ニナが目下ラブ光線を発しまくっている相手だ。
もう随分長いこと一緒に行動をしているが、それでも今だに
この男、顔だけは色男だと認めてしまう。
まぁ、顔だけであるが。
性格のことは言えば言い返されそうなので黙っていることにする。
傭兵稼業であちこち流れている時も、行く先行く先で女性の視線を
感じていた。
主には自分を通り過ぎて、目の前の男へと注がれるわけなのだが。
「だからさっきから、何を悩んでんだって聞いてるんだけど」
「悩みっつぅか……なぁ」
「ハッキリ言えよ、らしくない」
「……俺、お前の何なんだと思う?」
何気なく吐いた言葉に、グラスを傾けていたフリックは盛大に
吹き出す羽目になった。
「…………は?」
たっぷり間をおいて訊ね返すと、いやニナがな、とビクトールは
昼間にあった事をぽつりぽつりと話して聞かせる。
漸く合点がいったフリックは、呆れた表情を浮かべて手にした
グラスをテーブルに置いた。
「そんな事で、その辛気臭い顔になってんのか?」
「いやぁ、そう訊かれたらなぁ……そういや何なんだろうなって」
「答えたのか?」
「さらっと答えてりゃあ、こんなに悩んでねぇよ」
「まぁ、そりゃそうなんだけど」
ビクトールとフリックが初めて顔を合わせたのは3年前の
解放戦争なのだが、その頃はまだフリックはビクトールに対して
警戒心を解いてはいなかったし、そんな彼を子供のように感じて
関心を持っていなかったのがビクトールだ。
それがなんだかんだあって解放戦争を共に戦い抜き、そして
戦争が終わった後もこうして行動を共にしている。
解放戦争だけの事ならば、単純に「仲間」と答えて終いだろう。
けれど簡単にその一言で済ませるには、少々密度が濃いような気がする。
「仲間って言うには他人行儀すぎるし……けど、相棒と呼ぶには
 ちょっと違うような気がするんだよなぁ…」
ビクトールの中では、相棒とはお互いの力を出し合って助け合う、
そんな関係だ。
つまりは、自分と自分が手にする剣のような。
ビクトールは別にフリックを助けているつもりはないし、逆に
助けられているという気持ちもない。
どちらかといえば同じ目的を持って動く、やはり仲間という感覚だ。
「フリックにとって、俺って何だ?」
「え?」
急に問いかけられて、フリックが思わず眉根を寄せた。
ここでそういう話の振り方をされても困る。
うーん、と一頻り悩んだ末に、ぽつりと一言口にした。
「………家族?」
「なんだそりゃ」
思わず苦笑を零して、ビクトールは手元にあったジョッキを煽る。
少し考えて、フリックはやっぱりそうだ、と頷いた。
「戦友って言ったらそれまでなんだが…今更ただの仲間だ、なんて
 余所余所しいことを言うつもりはないさ。
 ただ、友人って言うには……もう少し、近いだろ?」
「……そうだなぁ、近いかもな」
「かといって、親友だなんてこっ恥ずかしいこと言いたくないし」
「そりゃこっちも聞きたくねぇや」
「じゃあ、あと残ってるのは家族、だろ」
「ふぅ~ん……成る程ねぇ」
にんまりと笑みを浮かべて、少し解決の糸口が見えてきたのだろう
ビクトールが満足そうに頷く。
「確かに一理あるな、そりゃ。
 ひとつ参考にさせて貰うとするわ」
「何の参考だよ」
思わずそう突っ込みを入れると、満足したビクトールは先に休むと告げ
席を立ってしまった。
その後ろ姿を見送って、さて彼は自分の言った言葉のどこまでを
理解しているのだろうかと思いやる。
家族と一口で言いはしたが、果たして自分が彼の事を親兄弟のように
見ているとでも思っているのだろうかと。
言外に含めた意味に、自分の事には鈍感な彼が気づくとも思えないが。


(まぁ、気付かないならそれでも構わないさ)


恥ずかしいから言わないけれど、やはり自分達の関係は「親友」と呼ぶのが
一番しっくりくるのかもしれない。
だが、フリックの中ではそれじゃ満足できない部分があるのが正直なところ。


いずれ彼の思いが伝わるのかどうか、それは神のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

実際書いたのは一昨年ぐらいのものですww

 

 

 

-20120803UP-