「此処だぞ、10年後のおめーの部屋は」
「なんか……自分でもビックリするぐらい何もないなぁ」
広いとも狭いとも形容できない程度のスペースが確保された四角い空間、
そこにあるのはベッドと、クローゼットと、小さめの机。
たったそれだけが、10年後の自分の部屋だった。










だが、その場所を10年前の自分に与えられたわけではない。
まだまだ未熟さが前面に出ていて、万が一急襲などにあった場合、
一人では対処しきれないだろうと判断したリボーンが、2人1組を
基本に部屋を宛がった。
今此処に立っている山本は、獄寺と同じ部屋だ。
「俺、この部屋に居たんだなぁ」
「ああ、そーだぞ。
 刀一本で此処へ来たらしい」
「……ははは、そっか」
未来の自分の姿というのは、自分では上手く想像できないものだ。
リボーンに言われた言葉もいまいちピンとこない。
それでも、仲間の大事に刀を持って此処にやってきたという自分を
どこか褒めてやりたい気がする。
「で、小僧はどうして俺を此処に連れて来たんだ?」
「別に深い意味はねーぞ。
 間違いなくおめーは此処に居たんだぞっていう事を教えたかった。
 そんだけだ」
「そっか……ん?」
お邪魔しまーす、と一応断りを入れて山本は部屋の中に踏み込む。
ぐるりと部屋を見回していた山本が、ある一点を見てお、と声を上げた。
「なんだコレ……手紙?」
小さな机の上に、白い封筒がひとつ。
その表面には『10年前の俺へ』と書いてある。
差出人の名前などは書いて無いが、その筆跡が自分と同じであることと、
この部屋に置いてあったこととで、何となく想像はついた。
「読んでもいーんかな?」
「おめー宛てになってんだろ?
 だったら読んでもいいんじゃねぇか?」
「そりゃまぁ……それじゃ、読んでみるか」
リボーンの言葉に頷くと、ベッドに腰をかけて山本は白い封筒を
中身に気をつけながら端を破り捨てた。
気になったのだろう、リボーンも山本の肩に飛び乗って中を
覗き込んでくる。
正直、リボーンにとってもこれは想定外の事だった。
山本の性格からして、メッセージのようなものを残していくとは
とても考えられなかったので。
今になって思うと、たった10年の間とはいえ彼も相当成長を
していたのだろう。




中身は至ってシンプルで、
此処へやってきた10年前の自分に対する激励の言葉と、もうひとつ。


自分達の尻拭いのような事をさせて済まない、という謝罪の言葉だった。





「……どうだ山本、読んだ感想は?」
「これ……ほんとに10年後の俺が書いたのか?」
「筆跡はどう見てもお前と同じだからな、間違いねーだろ」
「ふぅん……そっか、」
リボーンの言葉に頷きを返して、山本はその手紙をもう一度見遣ると、
何を思ったかそれをビリビリに引き裂き始めた。
「何してんだ、山本」
「うーん……なんてーか、上手く言えねぇんだけどな。
 まるで自分が2人いるみたいな……そんな気がしてさ」
「自分が2人…?」
「自分自身に対して『悪い』とか、『尻拭いさせる』とか、
 なーんか違うんじゃねぇかなって思うんだ。
 小僧が色々教えてくれて分かったけど、俺が此処に呼ばれたのは
 それが『必要』だったからじゃねーの?
 だったら、その求めに対して俺は全力を尽くすしかないのな」
だから、その事に対して謝ったりはしないで欲しい。
例えそれが自分自身の言葉だとしても。
「未来を変えるためには10年前の俺達が必要で、俺達が10年前に
 戻るためには、未来を変える必要があるってことだろ?
 逆に、俺は呼ばれてよかったと思うのな。
 親父もツナも小僧もいなくなっちまってるこの未来を、変える事が
 できるのなら……いくらだって戦ってやる」
「おめーは、こんな未来は嫌か」
「当たり前だろ!!
 ……だって、小僧はこうやって今、此処にいるってのにさ、」
ひょいと抱き上げた小さな身体は信じられないぐらい軽い。
もしかしたら赤ん坊の身体に悪いと言われているもののせいかもしれないが、
何となく10年前の世界にいた時より、少し体重が減っているような気がする。



「いなくなるなんて、絶対に嫌だ」



ぎゅうと抱き締められて、リボーンは軽く目を瞬かせた。
肩に乗せられたり頭を撫でられたりすることはよくあったが、こうやって
抱かれる事自体は数える程しか無かったから。
「……フッ、意外だったな。
 こんなにおめーに愛されてるとは思わなかったぞ」
「ん?…………ははははッ!!
 なんだ知らなかったのか、そりゃ残念」
途端に大きく笑いだした山本の姿に、リボーンの眉間に皺が寄る。
一体どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか。
いや、この男にそんな複雑な真似ができるわけがない。
きっと彼はいつだって本気で真正面を向いてくれる男だから。
ただ、惜しむらくは。



「俺は小僧が、大好きなのな」



自分に向いている感情と自分が相手に向けている感情は、決して同じでない。
その事だけが残念で、そして自分が彼と同じ言葉を返してやれない理由。
山本の優しい言葉にそうか、とだけ返して、リボーンは小さく吐息を零した。

 

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

山本くんの「好き」とリボ様の「好き」は
だいぶ違うと思うわけさ。

 

 

 

−20091220UP−