新しい島に立ったその時には、よくよく前の島と似たような島が
他にもあったものだと感心したのだが、色々あってまた暫くこの場所に
居付く事になって、そうしてから気がついたことが沢山あった。
この場所は確かに前の島とよく似ている。
けれどそれはあくまで『似ている』だけであって、やはり確実に
以前の島とは何かが違った。
例えば、雲ひとつない真っ青な空と透き通るようなマリンブルーの海。
これは前の島でもあったものだ。
けれど、この場所に生息する生き物や植物などは、違うものの方が多い。
確かにあった筈のものが無くなっていたり、無かったものが存在したり。
全体としては懐かしく感じるが、でも個々で見ると違うのだと頭のどこかが言う。
だからどうというわけではない。
懐かしく感じるのも寂しく思うのも、全て自分だけのものだ。
そしてたったひとつだけ、これだけは変わらないものがある。
何処で、どんな形であっても、
此処は自分にとって間違いなく『楽園』なのだ。
「こんな所で家事もせんと、なにぼさっとしとるんだ」
「何言ってんだ、今では専属家政夫がいるだろーが」
「その中にはお前も入ってるんだぞ」
「………何人家政夫を雇う気ですかアナタ様は……」
海の見える原っぱでゴロリと寝そべっていると、顔の上に小さな
影が差して目を開ける。
其処に立っていたのはかつて再会を約束して別れた小さな友人。
ゆっくりと身を起こして胡坐を掻いた膝をポンと叩くと、何も言わずに
小さな友人はその上に座った。
暫く2人で、凪いだ海を眺める。
「なあパプワ」
「なんだ、シンタロー?」
「お前、今まで……俺がまた此処に来るまで、どんな事してた?」
「んー…特に普段と何も変わらんぞ。
朝起きて、飯食って、皆で遊んで、寝る。その繰り返しだ。
けど、毎日とっても楽しかったぞ。
コタローが来たり、変な侍とかいうヤツらも来たしな!」
「そっか…」
「お前は?」
「…………うーん…」
問い返されて、シンタローは小さく唸る。
決して人様に褒めてもらえるような家業ではない。
ましてや、どんな風に過ごしてたかなんて。
「うまく説明できねぇな」
「じゃあ、楽しかったか?」
「……………。」
まるで当たり前の事を当たり前のように訊ねてくるこの友人に対して、
自分は何も答える事ができなかった。
日々を生きるのに懸命で、楽しさなんて感じる余裕すら無かったように思う。
「シンタロー、腹が減った。帰るぞ」
何を思ったか唐突にそう言うと、パプワは膝の上から降りて家へと向かう
道を歩き出した。
呆然と見遣っていると、早く来いと視線で訴えかけてくる。
仕方なしにため息を吐いて立ち上がると、ゆっくりとした足取りでシンタローは
その子供の背中を追いかけた。
「今日の晩メシはお前が作れよ」
「へ、なんで俺?家政夫は??」
「おやつを焦がしたらしくてな、罰として重しをつけて家の裏の海に沈めてきた」
「………生きてるといいなぁ」
可哀想なリキッドの境遇を少しだけ憐れんでから、しょうがないとシンタローは
歩調を速めてパプワの隣に立った。
「晩メシ、何が良いよ?」
「なんでも構わんぞ。
僕は好き嫌いが無いからな!」
「くさやは食わなかったクセに」
「あんなモンをいたいけな子供の前に出す方が悪い」
「なにその俺様発想!?」
「夕飯を食べて、風呂に入ったらゆっくり寝て、明日になったら、」
「ん?」
シンタローの数歩先を急ぐように歩いて、パプワが振り返る。
差し伸べられたのは、自分よりもずっとずっと小さな手。
「いっぱい遊ぼう、シンタロー」
唐突に理解した。
あの頃と何も変わらない仲間達が居るから、あの頃と変わらない小さな友人が
隣に立っているから、だから。
だから其処がどんな場所だったとしても、自分にとっては『楽園』なのだ。
「……弁当でも作って、朝からどっか散歩にでも行くか!」
「それもいいな。どーんと50人前で頼むゾ」
「ちょっ……どういう計算なんだそれッ!?」
「他の皆の分も含んであるぞ!
僕達だけというわけにはいかんだろう」
「俺の苦労は意にも介してもらえないってワケね……」
トホホと悲しい吐息を零しながら、それでも差し出された小さな掌を
自分は掴んでしまった。
認めるしかない、自分にとっての『楽園』は、彼の側にあるということ。
家路を共に歩みながら、明日は晴れると良いなと、そんな事を考えて
また苦笑を漏らすしかなかった。
<終>
久々に読んだので。(笑)
結局私はシンちゃんとパプワの関係性が一番好きなのです。
私の書く話の全ての基本形ですから。
−20090711UP−