2主名前=カイ

 

 

 

 

 

「ジョウイが…!?」

 

王国軍のキャンプに忍び込み、食料の備蓄量を調べてくるという
任務を受け、出立したのだという話を聞いたのは、もうすぐ
夜も明けようとする時刻になった頃だった。
自分達もあちこちバタバタして、そっちに気を配ってやれなかった
というのも事実ではあるが、そもそも彼らを拾ったのは自分達だ、
そんなものは言い訳にもならないだろう。
身を寄せている同盟軍の人間が、そんな手段を使うとは思わなかった、
それも言い訳に過ぎないだろう。
止める方法はいくらでもあった筈なのだ。
ところが、戻ってきたのはカイとナナミの2人だけで、足りない
子供を問えば、2人を逃がすために囮になったのだという。
助けに行くか?という問いに、彼らはジョウイを信じて待つと答えた。
必ず戻ると行ったのだから、必ず戻ってくるのだ、と。
そうしてミューズの門の前に座り込み、ただひたすら道の向こうを
見つめている。
ジョウイが戻ってくるのを待っているのだ。

 

 

 

 

「……普通に考えたら、捕まってると考えた方が自然だな」
「そうだな」
「まだ、アイツらは外で待ってるのか」
「ああ」
宿の窓から通りを眺めているビクトールからは、短い言葉しか
返ってこない。
それだけ憤りを感じている、ということなのだろう。
確かにフリック自身もジェスが取った行動に対して、あまり良い
印象は感じていない。
だが、彼が出した策自体は悪いと思えないのだ。
相手がどういう行動に出るのかを知るのは、これからの戦略を立てる
上で非常に大切なものであるし、忍び込むために用意した王国軍の
軍服が子供用であった以上、それを踏まえて利用しようと考えれば、
カイやジョウイの存在は非常に有り難いものであっただろう。
冷静に考えれば、卑怯でも何でもない。
ただ、頭の何処かであの子供達の事を庇護する対象として見ていた。
だからこその憤りなのだ。
もちろん、それを分かっているからこそビクトールは怒りはするが、
明け方に抗議しに行ったあの時以降、口に出して言う事は無いのだろう。
「もし……ジョウイが捕まっていて戻って来なかったら、
 カイやナナミはやっぱり助けに行くんだろうな」
「フリック……お前、そんな事アイツらに絶対言うなよ」
「言わないさ。お前だから言っとくんだよ。
 まぁ、確認みたいなもんだ」
「…………。」
「で、たぶんカイとナナミも王国軍に捕まっちまうんだろう」
「そうなるだろうな」
「……そうしたら、」
カタン、と音を立てて椅子から立ち上がると、フリックはビクトールの
傍に歩み寄る。

 

「そうしたら、きっと俺達はまた助けに行くんだろう?」

 

以前、キャロの街まで助けに乗り込んだ時のように。
ニッと笑みを乗せてそう言えば、ぽかんとしたような表情でビクトールは
フリックの顔を凝視する。
考えてなかったわけじゃないけれど、それをフリックが口にするとは
思わなかったのだ。
「ジョウイが無事に帰ってきてくれれば良いが、そうでなかったら
 俺達がどうするのか、それは考えておいた方が良い。
 アナベルに雇われている以上傭兵隊は動かせないけど、俺達の
 単独行動なら何とでもなるさ」
「フリック……」
「まぁ、カイとナナミが飛び出す前に俺達が動くってのでも
 良いかもしれないけどな。
 助ける対象は3人より1人の方がよっぽど楽だ」
「…………はははっ」
「ん?」
思わず自然に口から笑みが零れ出た。
まさか、フリックにそう言われるとは思わなかったから。
「フリック……お前、変わったな」
「そうか?」
「ああ、3年前じゃ考えられないセリフだ」
「……そうか?
 まぁ、そうかもしれないな……少なくとも3年、」
「え?」
ビクトールと同じように窓から外を眺める。
今朝方に太陽が顔を出す夜明けを見上げてから、太陽はぐるりと
半周して今、山間に消え行こうとしていた。
オレンジ色の優しい光を見つめながら、ああ、これはまるで、と
思いを馳せる。
この橙は、彼の色だ。

 

「3年、お前と一緒にいたんだからな。
 そりゃ変わりもするだろう」

 

3年間、この色を浴び続けてきた。
そろそろ染まってきてもおかしくはない。
「お前が動くというのであれば、俺も付き合うさ」
「そうか……でも、」
フリックの言葉に少し嬉しそうに頷いて見せ、ビクトールは
夕陽を背にするように窓辺へと体を預けた。
「とりあえずはジョウイを待ってみようぜ。
 アイツらが真っ直ぐに帰ってくることを信じてるんだ。
 俺も……信じてやろうと思う」
「そうだな……ああ、それもいい」
ふと表情を綻ばせてフリックは眩しそうに太陽を見遣った。

 

 

 

 

橙の優しい色。

それは変わらず、自分の傍らで優しい光を放っている。

 

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

ううむ……ヌルい。(笑)

でも、なんというか、コレが基本形かも。

 

 

 

−20090222UP−