1主名前=アルセノール・マクドール
2主名前=カイ
「あの……フリック、お願いがあるんだ」
「なんだ、アルセノール。改まって」
もうすぐ日も沈もうかという夕暮れ時、どうやら遊びに来ていたらしい
アルセノールが、酒場にいたフリックに遠慮がちに近づいた。
ちなみにそこに一緒に居たのはビクトール、そして珍しくチャコと
シドも共にテーブルを囲んでいた。
変な組み合わせだとは思ったが、話を聞けばどうやらシドに追われていた
チャコが2人の元に泣きついて来て、後から現れたシドごと気がつけば
一緒に卓を囲む羽目になっていたらしい。
フリック曰く、シドもチャコもビクトールの口車に乗せられた、だそうだが。
「で、なんなんだ、お願いって?」
「あの………ちょっと、言いにくいんだけど……」
「なんで」
「は、恥ずかしい、し……」
「おっ?
なんだなんだ、なんなら俺ら席外してやろうか?」
「ビクトール!!」
もじもじとしながら言うアルセノールを見てビクトールが笑う。
冗談を零せば、フリックから窘められた。
「ほら、ハッキリ言えって」
「あ…あの………、」
胸の前で指先を合わせながら言い辛そうにしていたアルセノールが、
意を決したように顔を上げた。
「フリック!この子連れて帰ってもいい!?」
言って背中から取り出したのは、赤マントをつけたムササビ。
思わずそこにいた3人があんぐりと口を開ける。
シドだけが、ヒヒヒ…と不気味な笑い声を零した。
「ム…ムクムク…?」
「ムムー……」
既に一頻り暴れた後なのだろう、諦めた様子のムクムクは
どこか落胆したような表情のまま大人しくアルセノールに抱かれていた。
「なんで……ムクムク?」
「だって!!かっわいいんだよう!?
このモコモコ感といい、愛らしいフォルムといい、最高!!」
「………だから連れて帰りたいと」
「うん!!」
力一杯肯定するアルセノールに脱力感を感じながら、フリックは
手にしていたコップを傾ける。
酒でも飲まなきゃやってられない。
「この場合どうしたらいい、ビクトール?」
「ちょ、なんでそこで俺に振るんだよ!!」
「俺には返答のしようがないんだよ!!
大体、なんで俺の許可を取るんだお前!!」
「だって、カイもナナミちゃんもどっか行っちゃって
いないんだもん!!」
「あ〜、そいじゃあしょうがねーよな」
「ヒヒヒ」
「ちょっと待てお前ら!!」
アルセノールの言葉を聞いて、チャコはジュースの入ったストローを
銜えながらあっさりとそう告げる。
シドなんかはさっきから笑ってるだけだ。
そんな理由で選択権を与えられては堪らないと、フリックは慌てて
2人の言葉を制するが、アルセノールはしっかり聞いていたようで
だからさ、とフリックの方へと視線を向けた。
「この子、ちょうだい?」
「ちょうだいとか簡単に言うなよ。
それに、ムクムクは渡せないな」
「ええ〜、どうして?」
「コイツもカイの元に集まった宿星の一人だからさ」
「ああ、そういやそんな事言ってたなぁ」
「ルックが預かってる石板にムクムクの名前があったぞ」
「そうか……今回は人外もいるのか……」
随分前の話になるが、3年前にもお世話になったレックナートが
今回も律儀に現れてそんな話をしていった。
その時に自分もフリックも思い知ったのだ。
自分達がカイ達を巻き込んだと思っていたが、実は今回も
しっかりと巻き込まれていた側だったのだと。
レックナートに会うと、どうも自分達は彼女の掌の上で転がされている
ような気がしてしょうがない。
「だから、コイツを渡すわけにはいかないんだ。
諦めてくれ」
「うーん……そっかぁ、じゃあ仕方ないよね」
「そうそう、人間諦めが肝心だぞ」
「それじゃあ、」
「それじゃあ!?」
何とか上手く纏めたと思っていたのだが、どうやらアルセノールの
話には続きがあるらしい。
思わず驚いて鸚鵡返しに尋ねると、うん、とひとつ頷いて
今度はビクトールの手を取った。
「じゃあ、ビクトールちょうだい?」
「なんっでそうなるッ!?」
思わずガンと拳でテーブルを叩いて、フリックがそう怒鳴った。
「えー、いいじゃん。
必要な時だけちゃんと返すからさァ」
「ダメに決まってるだろ!!
お前、俺の話をちゃんと聞いてたか!?」
「はっはっは、しょうがねぇなあ、アルセノールは」
「呑気に笑ってる場合じゃないだろう、お前はッ!!」
「えー、だってよ、俺久々にグレミオのシチューが
食いてぇな……っと、」
そこまで言って、ビクトールは思わず口を噤んだ。
フリックが目に見えて怒っているからだ。
「とにかく、ダメなもんはダメだっ!!」
「ちぇー……フリックのけちんぼ」
「そういう問題じゃないだろうが。
ホラ諦めて帰った帰った、グレミオが心配するだろ」
相変わらずの過保護なアルセノールの保護者を思い出して、
フリックがしっしっと手で追い払うようにする。
すると、少し考えるようにしたアルセノールが、じゃあ、と
もう一度口を開いた。
「シドさんなら良いでしょ?」
その言葉に思考が固まったのは、シド以外の全員だった。
言われた当人は、興味深そうに瞳を細めている。
「ヒヒヒッ、俺かァ〜?」
そうだ、よりにもよってコイツを選ぶのか。
「シドさんの翼があれば、俺も空を飛べるかな」
「ヒヒッ、そんなのお安いご用だ」
「やった!!
ねえじゃあシドさん、連れてくね?」
「よし、付き合ってやるかな、ヒヒヒ」
シドの手を引っ張ると、彼は簡単に席を立った。
とはいえ彼はあまり物事を深くは考えていない。
ただ単に、アルセノールに付き合った方が面白そうだと判断したのだ。
連れ立って酒場を出ようとする2人を眺めて、最初に覚醒したのは
チャコである。
「まままま待てよアルセノール!!良いのかソイツでッ!!
ソイツはなぁ、いっつもいっつも怖い話で人をビビらせて
楽しんでるようなヤツなんだぞ!?」
「えー、大丈夫だよ、俺どっちかっていうと怖い話好きだし。
そうだ、シドさんと一緒に怖がらせる側に回っても楽しそうだな」
「冗談じゃねえェェェェ!!」
シドみたいな奴がもう一人増えてはたまったものではないと、
思わず頭を抱えてチャコが絶叫する。
いずれ来たる倍増する恐怖を想像して、チャコはテーブルに突っ伏して
おいおいと泣き出した。
それを聞きながら、フリックとビクトールが顔を見合わせる。
「まぁ……シドなら別にいいか?
特にいなくなって害は無さそうだし……」
「ムクムク連れてかれると、後でカイやナナミが五月蠅いしな。
それにビクトールが連れてかれるのは俺が嫌だ。」
「……ああそう、まぁそれなら問題ねぇか………って、」
ガタン!!と2人は勢い良く同時に立ち上がった。
「「 よくねぇよ!! 」」
よく考えればシドも立派な宿星の1人だ。
色々取り返しのつかないことになる前に止めようと、大慌てで
アルセノールとシドを追いかけて、フリックとビクトールが酒場を出て行った。
<このへんにしとこう。>
久し振りにプレイして書いた話がこんなのかい。
幻水で活動していた当時の私を知る方は恐らくいらっしゃらないと
思いますが……いや、いたらいたで凄い事なんですけどね。
今書くとこんな話。ラブさえも遠い。(笑)
一応、狙い目はフリビクと坊シドなんですが。
ここだけは昔取った何とやら、というヤツで。
シリアスな話も書きたいなぁ。と、今は取り合えず思うだけで。(汗)
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