布団の中で、何度目かの寝返りを打つ。
胸の内がざわついて、荒れた海のようだ。

もうすぐ夜も明けるというのに、眠れやしない。

 

 

 

<The story for night which can not lie idle.>

 

 

 

 

 

 

カタン、と窓際から小さな音がして、山本はのそりと布団から
起き上がった。
月明かりがまだ差し込む窓辺に、座り込んだ小さなシルエット。
「ちゃおッス」
「あ…れ、小僧…?
 何してんだこんな時間に」
「やっぱりお前もか?」
「何が?」
「お前も、眠れねーんだろ?」
問い掛けると聞きなれた声がして、小さな体は身軽な動作で室内へ踏み込んだ。
そのまま布団の上に座り込む自分の元までやってきて、肩の上に飛び乗ると
帽子をぽいと脱ぎ捨てる。
「お前もって……じゃあ、小僧もか?」
「まぁな」
「子供がこんな時間まで起きてんのは感心しねーな」
「だから、俺も眠れねーんだって言ってんだろ」
来てしまったものは仕方が無いし、追い返すのも可哀想だ。
そう考えて山本は明かりを点けようとスタンドに手を伸ばそうとしたが、
それはやんわりと小さな子供の手で阻まれる。
「電気は必要ねぇ」
「え、でも、」
「頭が余計冴えちまうだろ」
「ってか、じゃあ何しに来たわけ?」
「………殺気立ってるな」
「?」
肩の上で座ったまま、リボーンは小さな掌でペタペタと山本の頬を触った。
それだけですぐに分かる、要するに力が抜けきっていないのだ。
「リラックスしろ。
 そんなだからいつまでも眠れやしねーんだ」
「て、言われても……どうすりゃいいんだか」
ハハハ、と乾いた笑いを乗せて山本はそう答えて頭を掻く。
言われてできるなら苦労はしない。
けれど目を閉じて眠ろうとすると、思い出すのだ。
自分の刀が掠りもしない、それどころが一瞬で叩きのめされた、その時の
屈辱だけを思い出して胸が震える。
「悔しかったんだろ、ほんの少しも敵わなかったことが」
「………そりゃあ…」
「アイツに勝てるほどに強くなりたきゃ、手が無くはない。
 けど、今の冷静さを欠いたお前には教えらんねーぞ」
「方法が……あるってのか!?」
「落ち着いて、よーく考えろよ。
 山本、お前の身近をもっとよく思い出せ。
 そこにヒントが落ちてんだ」
「………ヒント、」
ぽつり、と零すように呟いた山本の肩から飛び降りると、リボーンはいそいそと
布団の中へ落ち着いていく。
思わずきょとんとした山本に目を向けると、寝るぞ、と一言そう告げて
自分はナイトキャップを被りそこに転がった。
「え、なに、今日は泊まるわけ?」
「こんないたいけな子供を、こんな時間に追い返すのか?」
「あははは!!んなコト自分で言うんじゃねーって。
 お前ってホントおもしれーのな」
そんな時間に現れたのはこの赤子の方なのに。
まったくもってこの子供の発言は自分の予想を遥かに超えていて面白い。
常日頃から山本はそんな風に思っていた。
気に入っているかと聞かれたら、迷わず肯定する程にはこの赤子と話すことが
自分にとって楽しみであり面白くもある。
「ん、なんか寝れそうな気がしてきたぜ。
 さんきゅ、小僧」
リボーンの隣に寝転がってそう言うと、大したコトじゃない、と返事があって
小さな体が擦り寄ってきた。

 

「リラックスするには、人肌が一番だ」

 

え、と目を向けた時には、気持ち良さそうな寝息が聞こえていて山本は
小さく吹き出す。
あまりの早業に驚きもあるが、やっぱりこの子供は色々と見ていて楽しい。
「なんだ小僧、お前も俺とおんなじだったんかー…?」
胸がざわつくような焦燥に、眠れなかったのは自分だけではないのか。
そう思うと自然と口元が綻んで、山本は腕を回してぽんぽんとあやすように
小さな背中を叩いた。
もし同じような理由で眠れなかったらしいこの子供が、自分の元でこれだけ安らかな
寝息を零してくれているのならば、それだけリラックスしてくれているということ
なのだろうか。
そうだったら、それはそれでとても嬉しい。

 

「………俺も寝れそうだ」

 

あふ、と小さく欠伸を漏らすと、山本はおやすみと呟いて目を閉じた。
腕の中の温かな温もりに感謝して。

 

 

 

 

 

 

おやすみ、良い夢を。

 

夜明けまで、もう少しだけ。

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

初リボーンがなんでまたリボ山…?(笑)

仲良しリボーンと山本くんが大好きです。

 

ちなみにコレはスクアーロ初登場の日の夜、ぐらいのイメージ。

山本くんもリボーンも心穏やかじゃないカンジ。