クロムは、不思議な子だと思う。
もちろん彼らが人造人間であるという事は知っているし、人造人間というものが
どういうものであるのかも、理解はしているつもりだ。
けれどクロムと、その周りにいる彼らは、私の知る人造人間とはかなり違った
ものだった。

 

「エマ、帰って来たんだ?」

 

玄関から入れない事を知っている彼らは、いつも外壁を乗り越えて、窓から
顔を覗かせる。
窓硝子を3回ノック、それがいつもの合図。
それに私が目を向ければ、見慣れた顔が7つ。
その内の3つは同じ顔をしているけれど。
「……また窓から……」
はぁ、と零れる吐息もそのままに、窓を開けてやれば我先にと彼らは
部屋の中へと転がり込んでくる。
「おかえりエマ!」
「学校どうだった!?」
「学校ってどんなこと教えてんの!?」
そうやって質問攻めにあうこの状況は、学校と何ら変わりは無い。
いや、クラスターE.A.の生徒の方が品がある分大人しい。
こんな騒々しい事なんて滅多にない。
「エマ、学校のこともっと話してくれよ」
「あ、俺も興味あるな」
「子供ばっかり寄ってたかってんだろ?想像したらこえーよなー!」
3つ子は無邪気に部屋の中の物で遊び始めるし、クロムと他の子達は
目をキラキラさせて私に話をとせがんでくる。
どうしたものか、この状況。
そして何よりも。

 

彼らが『人造人間』なんて、誰が信じると思う?

 

人造人間だって立派な人間なんだ。
他の人間と同じ待遇にあって然りなんだ。
そう強く言っていた古い友人・カールスの言葉を、こんな時によく思い出す。
ああそうだ、その通りなんだ、カールス。
こんな子供達を『兵器』として扱ってきた、人間達が悪いんだ。

 

【違うよエマ!『誰かが』じゃなくて、『僕達が』考えなきゃ!!】

 

そうだ。確かに君は正しいよ、カールス。
けれど私には君のように行動なんてできなかった。
自分以外の誰かが動いてくれることを望んで、いつも遠くから見ているだけだった。
でもそれじゃいけないんだよな。
だからせめて、この子達だけは何があっても守っていこうと、この子達だけは
何があっても見捨てずにいようと、そう思うよ。
傍にいて必要な事を与えて、いつか人間の世界に溶け込んでいけるように。

 

 

 

 

「エマ?どうかした??」
「…えっ?」
思考に耽っていたからか、すっかりこの子達をほったらかしにしてしまっていたようだ。
視線を向けると心配そうな表情をしたクロム達が私の顔を覗き込んでいる。
「あ……ごめん、ちょっと考え事をしていて…」
「エマ、泣きそうな顔してたよ?」
「そ、そうかい…?」
まったく、こんな子供達にまで心配されるなんて。
ふいに強い視線を感じてその方に目を向ければ、真っ直ぐに見つめるクロムの目とあった。
この子はまた特別で、カールスの記憶を分け与えられた、いわばカールスの弟だ。
もっと言えば、この子達の中で一番人間に近い人造人間と言えるだろう。
「クロム?」
「あのさ、エマ、」
そう話し掛けるように言うと、クロムは私の手を強く握り締めた。
「え……何だい?」
「元気の出るおまじない」
「……え?」
「昔カールスにやってもらったんだ。
 落ち込んだ時とか、悲しいことがあった時とか、こうやって手を繋いでさ。
 元気が出るまでずっとこうやって一緒にいてくれたんだ」
「………。」
「そのおまじない、俺がエマにやってあげるよ」
「クロム…」
「エマが笑うまで、こうやって手を繋いで、ずっと傍にいてやるよ」
「あ、じゃあ俺も」
「それじゃ、俺もだな」
「なにッ!?ちょっと待てよお前ら!!何勝手に…!!」
気がつけば一緒にいた子達も私の手を掴んで離さない。
いつの間にか傍に来ていた3つ子まで。
私の両腕はすっかり彼らに占領されてしまった。
クロムが何かを必死に訴えているけれど、彼らはもう聞く気は無いようだった。
それがなんだか、可笑しくて。
「ふふっ…、あはははは!」
思わず笑ってしまっていた。
それをきょとんと見ていた彼らも、顔を見合わせると同じように笑い出して。

 

 

 

もしかしたら彼らは、人間なんかよりももっと温かい生き物なのかもしれないな、カールス。

 

 

 

繋いだ手の温もりが惜しくて、離すことを私は少し躊躇ってしまったんだ。

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

エマとクロム団。
人造人間達が愛しくてたまらないエマさんは、きっと私の分身です。
本気で彼らが愛おしいです。
エマはね、単品で愛でてます。クロエマは別格。
エマのネガティブっぷりが見ていて鬱陶しくて萌え。(なんで)
子供達が少しずつ道を見出してきているのだから、
ぼちぼち大人もイイトコロ見せる時なんじゃないの、エマ!?