夏。
夏といえば、どこにでもありがちな、合宿である。
そして、例に漏れずにこの少年達も。

 

 

「やたっ!皆で雑魚寝なんて、こんな機会でも無きゃ
 しないもんな〜〜〜」
部屋中に敷き詰められるようにして並べられた布団にダイビングしながら、
嬉々とした声を上げたのは、もちろん菊丸である。
「こら英二、布団がグシャグシャになっちゃうだろっ!?」
ゴロゴロ転がり出す菊丸を慌てて押さえようとする大石。
だが。
「いいなぁ先輩、楽しそうな事して……」
「じゃあお前も転がればイイじゃねーか」
「え、うわあっ!!」
ぽつりと呟いた越前の言葉を聞きとめて、桃城が口元にニヤリと笑みを
浮かべつつ越前の襟首を掴んで……投げる。
元々身体の小さめな越前は、そのままゴロゴロ布団の上を転がって、
菊丸の身体にぶつかって漸く止まった。
「イテテ…ちょっと、何するんスか!!」
「いやぁ、だって物凄く転がりたそうな顔してたから」
「だからって、こんな……」
「お〜〜〜ち〜〜〜び〜〜〜」
「………ッ!!」
ぶつかった先から恨みがましい声が聞こえて、越前の身体が竦みあがった。
ちらりと視線だけ向けると、声と同様怨念の篭った目と合って、
思わず越前は視線だけでなく顔まで逸らす。
「おちびっ!!ちょっとは痛かったんだぞーー!!」
「わあっ、すんませんっ!!」
掴みかかってくる菊丸に慌てて逃げようとする越前を見ながら、
桃城は大口開けて笑っている。
しかし。
「邪魔なんだよテメーは」
背中から蹴りをくらって、桃城はそのままゴロゴロと布団へと倒れ込む。
その後ろには海堂が立っていた。
「出入り口塞いで楽しいのか、あァ!?」
「な、何しやがんだ!! お前も転がれッ!!」
「うォっ!?」
桃城が倒れ込んだまま海堂の足を掴むと、力任せに引っ張る。
それにバランスを崩した海堂は、それでも後ろに倒れるまいと頑張った結果、
前のめりに倒れ込むことになった。
ケタケタ笑っている桃城に問答無用で殴りかかると、それを受けて立つべく
桃城が応酬する。
菊丸と越前、桃城と海堂、収拾のつかなかくなった現状に、思わず大石が
胃を押さえてしかめっ面を見せる。
が、それは唐突に終わりを迎えた。
「ぐはッ!!」
「あ、ゴメン海堂。見えなかった」
乾に背中をモロに踏みつけられて、海堂が呻き声を上げる。
「………………。」
「う……ご、ごめんナサイ……」
越前にヘッドロックをかましていた菊丸が、手塚の痛すぎるぐらいの視線を
一身に受け、思わず謝ってしまう。
そしてその後ろから。
「アレ? なに、どうしたんだ??」
いっそ白々しいぐらいの爽やかさで、河村が入ってくる。
一緒に入ってきた不二が部屋の惨状をぐるりと見回して。

 

「うわ〜〜〜………恐ろしいぐらいグチャグチャだね。
 僕達、一体どこでどう寝るつもり?」

やけに明るくソフトな口調で、そう言った。

 

 

 

 

崩れた布団もお泊りの醍醐味で。
ならば適当にゴロ寝しようと言ったのは、菊丸だったか河村だったか。

 

朝から晩までテニスに明け暮れて、
それでも今、この時はどこにでも居る少年達で。
そして夜も更けたこれからは、彼らだけの自由時間。

 

 

「俺も、もっと小さい頃から大石と出会ってたらなーーー。
 今よりもーーっと息が合ってたんじゃないかなーなんて
 思うんだけどね〜〜」
皆でぐるりと、まるで円陣でも組むかのように寝転がる。
うつ伏せだったり、仰向けだったり、それは人それぞれ。
話もコロコロと移り変わり、同級生の話やら先生の話やら、
誰ソレの恋愛事情やら。
だけど最終的には、話題はやっぱりココへと還ってくる。
「やっぱさ、無理だって。
 人間としての本質のトコロで、合わない奴ばっかりだからね。
 まぁ、大石とタカさんぐらいなら、誰とでも合いそうだけど。
 合いそうというか、合わせてくれそう、が正しいかな。
 でもさ、手塚とかは無理。絶対無理」
「……人を指差すな」
不二の言葉にほんの少し気分を害したように、手塚が短く呟きを漏らす。
「そういや、部長が誰かとダブルスしてンの、見たこと無いっスね」
「けどこの場合、しないんじゃなくて、させてもらえない、が正しいよ」
「へ?そうなんスか?」
意外そうな桃城に、答えたのは乾だった。
「うん、まァ何なら、明日練習がてらに手塚と桃城とでダブルスやってみるかい?
 面白いぐらいに個人プレー拝ませてもらえるから」
「…………はい?」
「動かなくてもいいし、ラケットも振らなくていい。
 桃城は立ってるだけでイイんだ。
 何しろボールは、」
「もういい」
乾の言葉を遮るようにして、手塚が不貞腐れた表情のまま腕に顔を伏せた。
「……怒っちゃいました?」
「いや違う。スネてるだけだから放っといていいよ」
困ったように訊ねてくる桃城に、乾が軽く手を振った。
「まあ、何にしろ、」
繋げたのは、河村。
「息を合わせようと思ったら、それだけ相手の事知ってなきゃいけないし、
 それだけ難しいってコトだよな。
 それでいえば、菊丸と大石は凄いと思うよ」
「でもー、まだまだにゃんだよなーーーーー。
 あッ、なあ大石ィーー」
布団を右に転がること、2回転。
大石の背中に乗り上げる。
「ちょ……英二、重いんだけど……」
「大石の子供の頃って、どんな?」
「えー……」
うつ伏せになった身体の背中に菊丸を乗せたまま、大石が視線を上に
彷徨わせる。
「どんなって……今と対して変わらないよ?
 ああでも……テニスを知る前は、サッカーが好きだったな」
「へぇ、そりゃ意外だにゃーー」
フムフムと相槌を打って菊丸は更に右回りで身体を転がしていく。
一度だけ不二がツッコミを入れた。
「あのさ、英二。
 歩くか這いずるかでもしようって気は、ないの??」
「うん、邪魔くさいーー」
菊丸の返事はごくシンプルだった。
転がること、2回転。
次に乗り上げたのは。
「……ッ、」
「はい次ーー、海堂は?」
「………多分、変わってないと……」
「えっ!?それじゃチビの時から愛想ナシ!?」
「菊丸……それをハッキリ言っちゃカワイソウだよ……」
更に右へと2回転。
「はい次、お不二ーーー」
「うわッ!結構重いんじゃないか、英二……」
「失礼なコト言うにゃっ!」
「いや、僕より絶対重い」
「それはイイからッ、不二の子供の頃は?」
「うーーん……やっぱりさして変わってないような気は
 するんだよねぇ〜」
「てことは、ニッコリ笑顔と毒電波はチビっこの頃からかぁ」
「……英二もなかなか言ってくれるじゃない?」
うふふふふ、と厭らしい笑みを零し合う2人。
この周囲の気温は絶対零度まで瞬間的に下がったような気がした。
更に右へと転がると。
「……あまり同じ方向へ転がらない方が良いんじゃないか?」
「ほへ?」
「脳が片寄りすぎて、今より馬鹿になったらどうする?」
「うっわ、失礼だ!!」
乗り上げた相手に視線を向けると、特に菊丸自身を気にする様子もなく、
それ以上は何も言わなかった。
……充分言い過ぎかもしれないが。
「んーで、乾はどうなんだよ。
 まさか昔からデータ取ってたわけじゃないんだろ〜?
 何か面白い話を聞かせてくれそうな気がすんだけどなー」
「………何を期待してるのか知らないけど、」
ふう、とため息ひとつ。
「悪いけど、幼少時代は恙無く過ごしたよ。
 むしろ何の変哲もない子供だったし。
 菊丸に聞かせてあげられるような面白ネタは………あ。」
「あ??」
乾の止まった言葉尻に期待を寄せて、キラキラした目で菊丸が
続きを促す。
「いや……そういえば、幼稚園の時に一人、敵がいたなーと」
「敵?乾の??」
「うん」
「へーー、何ソレ誰ソレ!?」
「ヒミツだよ」
「ええーーー、つまんないーーー」
ブーイングをだして、背中でジタバタ暴れ出す菊丸に堪らず乾は降参した。
「ちょ、菊丸、ソレは痛い…っ!!」
「だったら吐け!!吐けーーー!!」
「それは、ちょっと、」
「なんでだよっ、幼稚園の頃なら時効だろっ!?」
「それが、まだ時効じゃないんだよ」
「……え?」
きょとんとした目が、乾を見る。
「…まだ?」
「うん、まだ」
「じゃ、時効になったら教えろよ?」
「ああ、それなら構わないよ」
あっさり承諾すると気が済んだようで、菊丸は続いて右へと転がる。
その主は。
「手塚っ、次オマエ!!」
「………重い」
辟易した様子で手塚が言葉を絞り出すが、基本的に同学年の面子は部活外では
対等の立場だ。
よって、菊丸が手塚を避ける理由はどこにもないわけで。
問答無用で菊丸は手塚を締め上げた。
「さあ、吐け、言え!!」
「ああこら、そんなに首絞めてたら言えないだろう」
隣の乾が菊丸の腕を外してやると、漸くまともな呼吸が許されたようで
手塚が大きく深呼吸した。
ずれた眼鏡を手で押し上げる。
「………別に、これといって話してやれるようなコトは無いな。
 俺も昔からこんなものだ」
「嘘つけ」
漏れた言葉は、菊丸のものではない。
手塚の背に乗っている菊丸は、その左側へと視線を送っていた。
言葉の主は、乾。
「……別に嘘を吐いてなど」
「嘘を言ってはいけないな、手塚」
「何が言いたい」
「言ってもいいのかい?」
睨み合う二人の間に、珍しく火花が散った。

 

 

 

<続いちゃうんです。>

 

 

ぬああ!!ごめんなさい、一本で終わりませんでした〜〜!!!

本当は塚→←乾な話をと思って書き出したのに、皆でバタバタしてるのが
楽しかったんだーーー!!(汗)
あまりにも長くなりそうだったので半分でぶったぎったら、
めちゃオールキャラギャグ的内容に………おおう。(汗)

えと、なので塚乾な続きはまた後で。
少しだけ幼少時代の捏造入りまーーす。
暗黙の了解のような雰囲気なので、例に漏れず幼馴染ネタっつうワケで。(バラすな)

 

お題・幼い約束 に続きます〜。