テニスコートのベンチに腰掛け、たったふたりぼっち。
広げたノートに視線を落としながら、知らずと声が漏れた。
「………おかしいなぁ」
「何がだ」
すぐに返ってきた言葉に、ノートをパタリと閉じて空を見上げた。
空は快晴。雲ひとつ無い。
おまけに早朝であるから、夏季でも澄み渡る空気が気持ち良い。
「いやー…、どうして今ここに2人しか居ないんだろうかって」
「……」
隣に座るのは、仏頂面をしたままの男。
腕を組んで座ったままで、特に何かをするわけでもなく。
「…大石と不二からは連絡があった。
一人は寝坊、一人は風邪でダウンだと聞いた」
「そうなんだ。
こっちには菊丸と河村からメールが入っていたよ。
一人は寝坊で遅刻、一人は急用で今日は休むって」
「……じゃあこれ以上待っていても無意味なんじゃないか?」
「ははっ、そりゃそうだ」
「そういえば、桃城と海堂、越前はどうした」
「ああ、外で走ってるよ。
外周10周だから、もう暫くかかるんじゃないかな」
「そうか」
短く返事をすると、それ以上彼は何も言わなかった。
しかしここまで人数が揃わないのも珍しい事だ。
「今、コートに2人しか居ないなんてのは、なかなか低確率だよ。
あの4人が揃わないのもそうそうある話じゃない。
………雨でも降るんじゃないか?」
凄く良い天気なんだけどね。
そう言って笑うと、持っていたノートを横に置き、代わりにラケットを
手にして乾は立ち上がった。
「来ないんじゃ、待ってても仕方ないし。
とりあえず3人が戻ってくる前に、軽く始めとく?」
そう問われ、頷いて答えると傍にあった自分のラケットを持ち、同じように
立ち上がり乾に向き直った。
「そうだな………乾、」
「うん?」
「雨の降る確率は?」
「さぁ、10%…って言いたいところだけど、こうも珍しい事が
起こっていたらね………70%ぐらいに上がってるんじゃない?」
勿論冗談だ。
こんな天気の良い日に、雨なんか降る筈がない。
けれど肩を竦めながら冗談交じりに答えてやれば……それを聞いていた
相手の口元が、ほんの微かに笑みの形に歪んだ。
「じゃあ、」
2歩、乾の方へと近づく。
何の前触れもなく突然唇に柔らかい感触がして、しかしそれはすぐに離れて。
自分の身に何が起こったのかを頭が理解した途端、その場に乾が凍りついた。
「これで、80%だな」
相変わらずの仏頂面のままそう言うと、踵を返してコートの中へと歩き去る。
そこで少し待っていたが、いつまでも動かない乾に痺れを切らして声をかけた。
「おい乾、始めないのか?」
その言葉で金縛りが解けたようで、よろよろと反対側のコートに入ると
ボールを弄りながら乾が困ったように口を開いた。
「……まさか、あんな事をされるとは思ってもみなかったよ」
短く嘆息を漏らす。
それに相手が平然とした表情で答えた。
「降水確率を上げてみただけだ」
「ああ、そうそう。
それだけどね」
あんまりにも唐突だったから、驚いたけどね。
でも、特に嫌な感じもしなかったから、許してやろうか。
嫌だと思わなかった自分にも、正直驚かされたしね。
だから。
「80じゃなくて………90だよ、手塚」
ラケットを構えて、乾がそう言って笑った。
<終>
なんでもとりあえず書いてみようと思い立ったこのその他項目。
しょっぱなからテニプリで良いんですか佐伯さーーん!?(汗)
…なんて自問自答しつつ、とりあえずテニプリ内ブームな塚乾でも書いてみました。
自分でもすっごい不思議なんですけど、別に作品自体に思い入れがあるとか
ハマってるとかじゃなくて、ナチュラルに手塚×乾が好きなんです。
こういうハマり方するのもそうそうあるコトじゃないんで、自分でもビックリなんですが。
相変わらず、カッコイイ攻めとオトコマエ受け理論は覆しておりませんが。
塚乾と不二タカがマイブームってなワケで!!(強調)