『単細胞。』
……言われてしまった。
元々出る気のなかった軍議についつい出てしまったから。
おまけにそんな所で居眠りなんかしてしまったものだから。
陸遜の小悪魔的な笑顔と共にそう言われると、ぐっさり胸に突き刺さる
ものがある。
結局その軍議も、纏めを聞く事もなく出てきてしまった。
「………興覇、」
呼び止められて振り向くと、先刻まで共に軍議の場に居た主君の姿があった。
「何だよ」
ぶっきらぼうにそう答えると、孫権が困ったような笑みを浮かべる。
「まだ、拗ねてるのか?」
「拗ねてるワケじゃねぇ」
「ホラ、拗ねてる」
「………」
クスクスと可笑しそうに笑われて、甘寧は憮然とした表情で押し黙った。
「興覇、陸遜の毒舌は今に始まった事じゃないだろう。
そんなに気にする事はない。
どうせ陸遜も、今頃は言った事すら忘れてるぞ?」
それはそれで非常に腹立たしい話なのだが。
そう突っ込もうとしたが、結局何も言わずに甘寧はそっぽを向いた。
「なぁ、仲謀」
「何だ?」
「俺って、役に立たねぇか?」
「そんな事は無い。
随分と……助けになっている」
「でもよ、」
「…興覇」
強い風が吹いて、砂埃を避けようと甘寧が一瞬きつく目を閉じる。
次に目を開けると、真っ直ぐ自分を見つめる蒼い瞳とぶつかった。
風貌も雰囲気も何もかもが兄・孫策とは似つかぬものではあるのに、
その力強い瞳だけは、とてもよく似ていて。
惹きつけられて仕方のない、そんな。
「興覇、お前の強さはそれを目にした者にしか解らぬ。
私は……お前の強さをちゃんと知っている」
だからこそ、力になって欲しいと願った。
「今までもこれからも、その強さは揺るぎないものと信じている」
そうして向けられる微笑みに、甘寧もつられるかのように笑みを浮かべた。
「全く……敵が多いわけだぜ」
何かにつけて、こんな顔を見せられたんじゃなぁ…と、口元だけで呟いて、
甘寧は頭を掻きながらため息をついた。
「うん?」
首を傾げて見返してくる孫権に、この事は内緒にしておいて。
元より、誰にも譲るつもりはないけれど。
特に小悪魔軍師なんかには。
なんて、陸遜の事を思い浮かべて、ついでに思い出してしまった。
「そういえば、俺に『たまには軍議に出ろ』なんて言ったのは
お前じゃなかったか!?」
「ああ、そういえば言ったな。陸遜と興覇のやりとりは、見てて面白いから。
おかげで楽しかったぞ、私が」
「お前がかよ!」
間髪入れずに今度は突っ込んで、2人は顔を見合わせると同時に吹き出した。
<終>
2009年2月 再アップ。
私の中での甘権イメージに一番近いものかもしれない。
権ちゃんは、甘寧と一緒なら一杯一杯笑えるといい。