貴様か、私の話を聞きたいという奴は。
物好きな奴だな………まぁ、良い。
私の名は司馬仲達という。
この、魏という大国で、軍師の役を担っている者だ。
まだ仕官してから、然程時は経っていない。
此処へ来る時から正直あまり気乗りはしていなかったのだがな。
ある者は、私を無愛想な男と言う。
ある者は、私を陰険だという。
確かに言われたら言われたで腹も立つものだが、そんな事に
構っていられる程私も暇ではないし、所詮奴らの乏しい頭が
私の類稀な才能を妬んでいるのだろうなんてことは想像するに
易いからな。
そのような輩とつるもうという気すら起きないのも実際だ。
人に悪態をつく頭脳があるならば、もう少し職務に役立てて
頂きたいものだな。
実際、私は今、友人というものに困っているわけではない。
どこの国にも一人や二人、お人好しに拍車をかけた人間は
居るものだ。
全く……私と関わりを持つと、その内お前達にも危害が及ぶやも
しれぬと再三言っているのにも関わらず、彼らはしつこく付き纏って
来るのだ。
「言いたい奴には言わせておけばいい」
そんな事を言われたが……確かに、それも正論だ。
…なに?奴らの事を知りたいというのか?
知ってどうするというのだ馬鹿めが。
まぁ……別に話してやっても構わぬのだがな、絶対に奴らにだけは
こんな事話していたなんて言うのではないぞ。絶対だ!
一人は……どこまでもくそ真面目な男だな。
武将としての腕を言うなれば、見事としか言いようが無い。
攻め込みきれる実力を持ちながら、且つ慎重に事を進める事が
できるのが非常に彼らしい。
無論私は、彼のそういう所も買っている。
人間性を言えば、お人好しに輪をかけたような。
だからいつも貧乏クジを引いているような気もするが……。
だが、ああ……良い奴だと思っている。
きっとあのような男は、他所にはおらんだろうな。
解らんのなら、一度見て来い。
もう一人は、その男にいつもいつもひっついている奴なのだがな、
妙な…男だ。
実際、私も奴の事はよく解らん。
戦場では、臨機応変に色んな事をしてのける奴ではあるが……。
最初に思ったのは…そう、美的感覚がおかしいという事だったな。
何ぞ己の兵士にまで教え込んで。
しかしながら、それで統率が取れているのだから、放っておく事に
している。
関わりたくないし理解したくないというのもあるかもしれんがな。
…何故そんなにしかめっ面なのかだと?
馬鹿めが!奴の事が嫌いだからに決まっておるだろう!!
奴からも、面と向かって嫌いだと言われたしな。
陰口を叩かれるより、面と向かって言われた方がずっとマシだ。
それで何故友なのか、だと?
馬鹿めが、今解らぬのなら恐らく一生理解などできぬわ。
あと一人……居るのだが。
今思えば、その男が真っ先に私に声をかけてきたような気がする。
どういう男かといえば……また説明に非常に困る。
能天気…というわけでも無さそうだし。
楽観的に見えて、実は色んな事をちゃんと考えておるし。
先刻説明した男とはまた違った意味で、私は彼が解らんな。
だが……恐らく、私を一番理解しているのは彼なのだろう。
そういう気がしている。
実は彼と戦場を共にした事が余り無くて、戦場での彼の腕は
よく知らなかったりするのだが……訓練場でよく、彼が
弓を射ているところを見かける。
私は、彼が的を外したところを、未だかつて一度も見たことが無い。
ああ……そうだな、良い奴だと思っている。
時々、もう一人とつるんで悪さをするが……どこか憎めなくてな。
きっと、嫌なこと全部吹き飛ばしてしまいそうな顔で笑うからだろう。
ああ、ちょっと失礼。
また窓辺に誰かが悪戯をしておる。
……その花は何か、だと?
時々、この窓辺にこうやって置かれているのだ。
どうやら花自体に拘りは無いらしくて、その時その辺に咲いているものを
適当に摘んで来るらしい。
花を贈るのが目的では無いのだろうなという事は、割と早い時点で
解ったのだが……最初はその真意が解らなかった。
今ではちゃんと、解っている。
悪いが、話はここでお開きだ。
明日に急用が入ったのでな、急いでこの竹簡の山をどうにか
しなければならん。
もしまた続きが聞きたいのなら、それはまたの機会にしてくれ。
……は?
その友の名前…だと?
誰が教えるか、馬鹿めが。
「ま〜ったく、夏侯淵殿もモノ好きですよね。
どうしてあの偏屈を誘うんでしょう?」
「まぁまぁ張コウ殿、宜しいじゃありませんか。
人数は多い方が楽しいでしょう」
「そうそう、徐晃の言う通りだ。
お前もそう言うけどよ、アイツが来るからって理由で
一緒に行かなかった事ってねぇじゃねぇか?」
「う……良く見てらっしゃるじゃありませんか……」
「こう暑いとやってらんねぇからな、息抜きもたまにゃ必要だ」
「明日は何処に行くのでござるか?」
「ああ、言ってませんでしたっけ?
川にでも出て、涼みましょうかって」
「なるほど、それは良いですな」
窓辺の花は、誘いの印。
まだ司馬懿がそれを断った事は、無い。
「やれやれ、明日までにこれが片付けば良いが……」
その頃司馬懿は、机上の竹簡の山を目に、大きな大きなため息。
窓辺の花は、約束の印。
『明日、晴れたら、城門の前で』
<終>
2009年1月 再アップ。
司馬懿視点で仲良し4人組を見つめてみた。やたら気に入っている一品。
あの頃の私はこんな事考えてたのでという事が見え見えだなぁ…。
ただ、あくまで私らしさを行く話なのかもしれないと思った。