<ゾロ犬の冒険>

 

 

 

俺の名前はゾロ。雑種のそこらに転がっているような犬だ。
元々野良犬だったんだが、ウソップという男に拾われて、今では
立派な(?)飼い犬だ。
野良生活も自由気ままで気に入ってたんだが、ウソップの家も
そう悪くはなかった。青っ鼻のトナカイも飼って(?)いるみたいで、
ウソップは動物好きみてェだな。
だけど時々、俺はやっぱり野良生活が恋しくなる時があって、フラリと一匹で
散歩に出ることがある。
それで今、ちょっと窮地に陥っていたりするんだ。

 

 

道に迷った。
イヤもう、どうしようもねェぐらい豪快に迷ったみてェだ。
いつもはそれでもテメェでどうにかするんだが、
今回ばかりはそうもいかねェみたいで、辺りを見回してみても、
まっったく道に見覚えがねぇ。
とりあえず、家のありそうな方向に歩いてはみるが、それも
正しいかどうか怪しいモンだ。
無事に帰れるかどうかも自信持てなくなると、急にウソップの顔が
見たくなった。
心配性のアイツだから、今頃きっと大慌てで俺の事捜してんだろうな。
自分的に気合いを入れて、もう少し帰り道を探してみる事にした。

 

 

 

 

 

一人の男とすれ違った。
麦わら帽子被って、袖なしの赤いシャツに膝までのズボン。
ハッキリ言ってかなり寒そうだ。寒くねェのかアイツ。
風邪ひいたりしないんだろうか。だったら馬鹿だな。
馬鹿は風邪ひかねェって言うしな。
特に気にも留めずにサクサク歩こうとしたら、イキナリ襟首(首輪)を
掴まれた。
「犬だ」
当たり前だ。他の何に見えるってんだ。
やっぱり馬鹿だろ。
「犬って食えるかなぁ」
ちょっと待て。食うとか言ったかテメェ。
唸り声出して威嚇しても、全くヤツはビビった気配を見せねェ。
それどころか、豪快に腹の虫鳴かせてやがる。
ヤバイ。このままじゃマジで食われちまいそうだ。
こいつの目、かなりマジだ。
なんとか逃げようと思って暴れてみたりしたが、まったく手が
はずれねェ。
後ろ足で地面の砂蹴り上げたら、さすがに怯んだみてェで、
手が離れた瞬間に俺は逃げ出した。
が。
何故かまた、がっちりと捕まっちまった。
首だけ後ろを振り向くと、手が異様に延びてやがる。ゴムみてェに。
これが噂に聞くゴム人間ってやつか。
厄介なヤツに捕まっちまったな。
「へへっ、飯!!今度は逃がさねェぞ!!」
…既に飯呼ばわりかよ。
食われてたまるか!!!
俺の誰にも負けねェ(犬限定)眼光で睨み据えても、ヤツはまったく
動じねェ。ゴムのくせになんて野郎だ。
「煮てヨシ、焼いてヨシ。どうやって食うか…」
だから普通のメシを食えよ、テメェは。
一応バケモンだが人間なんだろうが。
ああっ!俺が人の言葉を話せたら、思いきりツッコミ入れてやるのに!!
と、そんな事よりどうやって逃げるか考えねェとな。
ウソップに会う前にくたばっちまうワケにもいかねェ。
「とりあえず、連れて帰って、エースにでもさばいてもらうか。
 俺料理できねェし。さすがに生身で食うワケにもいかねェかんな」
ししし、と笑ってヤツは俺を肩に担ぎ上げた。
なんとなく、チャンスな気がしたんだ。
鼻歌混じりで機嫌良く歩いているコイツの耳元で、俺は出せる限りの
一番大きな声で吠えた。
「うわっ!?」
不意突かれて驚いたみてェで、男の手が緩んだスキに俺はどうにか地面に降りた。
…コイツ、いつか会ったらマジ殺す。今は急いでるからヤメとくがな。
構ってる場合じゃねぇし。
……逃げるんじゃねェからな。言っとくが。
まだダメージが残ってるらしく、耳抑えながらよろめいてる麦わらを一瞥して、
俺は全速力で逃げた。
アイツとは、関わりあいにならねェ方が賢明だ。
とりあえずその日はそこらで野宿した。
そんなに遠くまで来ちまったんだろうか。
1日では帰れねェくらいに。
いや、そんなハズは。
…ま、まぁ、それはおいといて。
明日には帰れると…いいんだがな。
雨降っても大丈夫そうな樹の下で一眠りして、
次の日の朝、俺はまた歩き出した。

 

 

 

 

 

「あら、犬だわ」
そう言って俺の前で立ち止まったのは、オレンジの髪をした女。
物珍しそうに見てくる視線が何となく気に食わねェから、
俺は無視する事に決めた。
何も言わずに通り過ぎようとしたら、また掴まれた。
「何よこの犬。愛想ないわね」
そう思うならとっとと離しやがれ。
急いでるんだよ、俺は!!
「あら…迷子札付いてるわね。……ふぅ〜ん…アンタ、ゾロって
 名前なんだ。飼い主は……ウソップ?
 なんだ、ウソップったらいつの間に犬なんか飼ってたのかしら」
…うん?
この女、ウソップの事知ってんのか??
どうでもいいからそんなに首輪を引っ張るなよ。
首がもげちまう。
じたばたもがくと、女は少しだけ手を緩めた。
「だけど…首輪のネームプレート以外にこうやって迷子札つけられてる
 って事は、アンタ、よく迷子になってんでしょ。しかも、
 今も実は迷子なんじゃないの??」
うっ……イテェとこ突いてくるじゃねェか。
でも、って事はこの女、ウソップの家の場所知ってんじゃねェか?
「情けないわね…それでも犬?」
うわ、ムカつく事言いやがって!!
唸ると女が肩を竦めた。しかもあからさまに馬鹿にした目しやがって。
「ハイハイ。気を悪くしたなら悪かったわよ。
 昨日そういえばウソップに会ったわね。何か探してるみたいだったけど…
 きっとアンタを探してたのね」
ウソップが?
そりゃマズイな。早く帰ってやらねェと。
どうも顔に出てたみてェで、ナミは笑いながら通りの向こうを指差した。
「この道をあっちの方に真っ直ぐ進みなさい。ずっと真っ直ぐよ。
 ここからでも見えると思うけど、今煙突から煙出てる家だからね。
 あんまり、ウソップに心配かけてるんじゃないわよ!!」
ありがてェ。ちょっといいヤツだったんだな、アンタ。
これでやっと家に帰れる。
礼を言うべく一声吠えると、ナミは理解したのかパタパタと手を振った。
「ああ、いーのよいーのよ。
 ちゃんとツケとくから。3倍返しね」
……前言撤回。
この女、犬に何させる気だ。

 

 

 

 

 

ようやく自分でも解るぐらいに見慣れた場所にきた。
こぢんまりした家も、俺専用の小屋も。
あ?玄関に誰かいるな。
金髪で黒のスーツ着て煙草ふかした…………あの野郎!!!
正体を理解した俺は、全速力で走った。
あの野郎、ウソップ狙ってやがるんだよな。
早くしないと、ウソップにエロコックの毒牙が!!!
「おい、ウソップいるか?」
「…おお、サンジか。どうした?」
「ん?……どうした、目の下に隈できてんぞ」
「ああ…ちょっと眠れなくて」
「どうしたんだよ」
「ゾロが……犬が、いなくなっちまって……」
「ああ、アイツか。大丈夫だって、ちゃんと帰ってくるさ。
 だから元気出し…………っっ!!!」
そこまでで会話は終わりだ、エロ眉毛。
思いっきり足に噛みついてやったからな。
ようやく気がついて、サンジが俺の方を向いた。
「……このクソ犬が!!!」
イキナリ飛んできた蹴りを紙一重でかわして間合いを取ると、
お互い隙を窺うように睨み合う。
「ゾロ!!!!!」
そのサンジを横から突き飛ばしたのは、ウソップだった。
…時々スゲェ事しやがるな。我が飼い主ながら感心するぜ。
ウソップはこっちに向かって駆けて来ると、俺を力一杯抱き締めた。
「馬鹿ゾロ!!すっごくすっごく心配したんだからなっ!!」
涙を零しながら言うウソップ。
何だか嬉しいな、そこまで想われると。ちょっと力強くて苦しいけど。
涙の伝った頬を舐めると、少し塩っ辛かった。
だが、その後ろで人の気配が動いた。
「うげっ」
ウソップが、サンジに背中を踏まれて呻く。
「感動の対面はそこまでだ、ウソップ」
煙草の煙を吐き出しながらサンジは挑発的な目で俺を見てくる。
そっちがそのつもりなら、その喧嘩受けて立ってやるぜ。
返り討ちにしてやるぜエロコック!!
ていうかいい加減にウソップから足どけねェか。
ウソップの腕から擦り抜けて、神業的早さでサンジの足に噛みついたのを
合図に、闘いは始まった。
「…何にせよ、帰ってきてくれてよかった…」
近くで安心したウソップの声が聞こえてきた。
俺も、とりあえず帰って来れたからヨシとするか。

 

 

 

<おわる>

 

 

微妙に好評を戴いたパラレルもの。

書いててムチャ楽しかったの覚えてます。(笑)