<Act.8 ルフィ>

 

 

 

 

ウソップの奴、俺の顔見て一番に何て言ったと思う?

 

『悪ィ、俺もうすぐ死ぬから』

 

そりゃあねぇだろ。なぁ?

 

 

 

 

 

 

チョッパーが調合した薬を飲み込むウソップを眺めながら、何となく思った。
コイツがこのまま死んでしまうのか、それとも生き延びるのか。
それはどれだけ俺や仲間達が嫌がったって、もうどうにもならない事なのかもしれない。
要はチョッパーが間に合うかどうか、それまでウソップの体力が保つかどうか、それだけだ。
医者でもない、頭もどっちかってーと悪い俺は、それこそ邪魔なだけなんだ。
チョッパーの方はロビンやナミが協力してるみたいだから、特に心配はしてねぇ。
じゃあ、俺は……何をしてやれるんだろう?
この、死を待つしかない仲間に。

 

 

 

「……なァ、」
「何だよ?」
「お前、今どんなコト考えてんだ?」
なんとなく聞いてみれば、ベッドに寝転がった(少なくとも今日は絶対安静らしい)
ウソップが、べーつーにー、なんて気の無い返事を戻してきた。
別にって、お前アホか。
「別にって事はねーだろ?
 たぶんお前の事だから、きっと色々考えてんだ」
「イヤイヤイヤ、そりゃお前買いかぶりスギってなモンだぜ?
 別に何も考えちゃいねーよ。
 まぁ……しいて言うなら、今ある釣り竿の改良をいつしようかってことぐらいで」
「そんなモンなのか?」
「そんなモンだ」
「……怖くはねぇのか?」
「そりゃあ、怖いよな」
「だったら、」
「俺は嘘吐きなんだ」
「……んん?」
話が急にどこかへ飛んで、俺は言いかけた言葉を止めた。
とにかく今は、少しでもたくさんウソップの言葉を聞きてぇんだ。
「俺は嘘吐きなんだ、それもプロ中のプロだな!
 だから……騙すのが大の得意なんだぜ」
「何言ってんだよ、俺らには簡単にバレたじゃねーか」
「いやホラだからそれはアレだ、偶然の成り行きってやつで、
 さすがに俺様も偶然までは読み切れねーんだよ。
 まぁとにかく、だ」
「なんだ?」
少し言葉を切って、笑ったウソップは泣きそうだった。

 

 

「忘れてぇんだ、この身体のことも、もうすぐ死ぬんだってことも」

 

 

だから考えないようにしてんだ、そう言うウソップの手は、震えていた。
その時にどうしてか、ストンと全部自分の中に落ちてきたんだ。
どうしてやればいいのか、何をしてやれるのか。
答えは思った以上に簡単で、そう思ったら居ても立ってもいられなくなった。
イキオイで部屋を出て、必要なもの探し出して、全部抱えて。
ドアを蹴り開けて戻って来た俺に、ウソップはそのまま取れちまうんじゃ
ねぇかって心配になるぐらい目を見開いて。

 

「釣り竿の改良、やっちまおうぜ!
 俺も一緒に手伝うからさ、ししし!!」

 

持ってきた竿を床の上に置いて、工具箱をウソップの膝の上に乗せたら、
ボロボロとアイツはたくさん涙を零した。

 

「何言ってんだ、お前みてぇな不器用な奴、役にも立たねーよ」

 

 

 

 

泣きながら、それでも笑ってたんだ。

 

 

 

<続>

 

 

 

お前が笑えるなら、そんでいいや。

 

いつだって、どんな時だって、傍にいて笑わせてやるよ。