<Act.4 サンジ>
ポケットから時計を取り出して、時間を見る。
よし、そろそろ頃合だな。
焼きたてのケーキをナミさんとロビンちゃんに召し上がって
頂かなくては!!
女性の喜ぶ姿を見るのは、この上も無い幸福だ。
その為の労力なら、ほんの少しも惜しむ気はねェな。
なんて事言ったらクソマリモが「下心見え見えじゃねェか」などと
ヌカしやがったが……そんな事は……いや、決して。
テーブルの上に皿を並べて、ケーキを切り分けようとして……
ふと、手が止まっちまった。
視界の端に、チョッパーが入ってきたからだ。
真剣な顔つきで、最近ずっと本読んでやがる。
俺様のスペシャルなディナーもデザートも、本読みながら。
一度ナミさんに「行儀が悪い!」って怒られてから、それは
無くなったが……。
何故かは自分でも知らねェが、俺は止められなかった。
止められなかったというか……声がかけられなかったと言っていい。
そのぐらい…何て言うか、必死なんだよ。
だから、今も俺はコイツに声がかけられずにいる。
甲板で、悲鳴が上がった。
ナミさん声だと判断する前に、むしろ条件反射で扉を蹴り開け表に飛び出す。
おのれ、女性に悲鳴を上げさせるモノは、俺が全部オロしてやる!!
手すりから、階段下を覗き込むと……そこは、一面の赤。
その中心にいるのは、長ッ鼻だった。
ナミさんは近くで座り込んで、真っ青になっている。
心臓が跳ね上がった…ってのは、このことを言うんだな。
気を落ち着かせる為に煙草を加えて火をつけようとして、上手くいかなかった。
手が震えてやがる……って事は、やっぱ少しぐらい動揺してんのか。
煙草を投げ捨て、俺はキッチンを振り返って声をかけた。
「おい、チョッパー………急患だ。
ウソップが血ィ吐いてやがる」
文字通り、風が通り過ぎた……そんな気がした。
本を投げ出して、ものすごい速さでチョッパーが甲板に出て行く。
あまりの速さで、それで全てに合点がいった。
チョッパーの必死な姿の、その理由が。
<続>
きっとアイツは知っていたんだ。
その思いが、声をかける事を躊躇わせたのだろう。