<Act.1 チョッパー>
夏島付近はどこでもそうなんだけど、気温か随分上がる。
アルバーナほどじゃないにしても、やっぱり汗をかくぐらいには暑い。
「ふー、今日もあっついなー」
今日もウソップは甲板で何か作ってる。
もう見慣れた光景……でも、今は見るのがツライ。
ウソップが倒れてから、一週間程が経ってた。あれから倒れた事はない。
ウソップが言うなっていうから、今は俺も何も言わない事にしてる。
まだ時間がある内に、ウソップから採血した血を調べてみた。
やっぱり…俺の考えは間違ってなかった。
今回だけは、誤診であることを願ってたのに…。
「ウソップ…ちょっといいか?」
太陽の下で何か作ってるウソップに声をかける。
言わなきゃ、俺は、医者なんだから。
「ん?どうしたチョッパー?」
「調べた結果、話しておかなきゃ、と、思って」
心臓がドキドキしてる。
緊張じゃなくて…恐いんだ。ウソップがどんな顔をするか。
案の定、ウソップの目が驚いた風に丸くなって…それから、男部屋の扉を指差した。
「じゃあ、中入ろうぜ。あそこなら今、」
誰も居ないから。
言わなかったけど、俺には解った。
まだ内緒にしとくつもりなんだ。
でも…でも、それは。
「…細菌?」
「うん、ウソップの体の中にいるんだ。
この細菌は、人間を内側から食い尽くす」
俺の言葉に、ウソップはあからさまに顔をしかめてみせる。
「うへぇ、食うのか!?恐ぇなぁ…」
「一番厄介なのが、まだこの菌に効く薬が見つかってないことなんだ」
「マジかよ…」
ほんとは、ほんとは言うのが恐い。
でも、言わなきゃならないんだ。
それは俺が…。
「ごめんなウソップ、俺も頑張って探すから。
だから、しばらく我慢して」
「うん…まァそりゃ勿論だけどよ……実際さ、
俺の体ってあとどのぐらい保ちそうなんだ?」
「わかんない…けど、進行状況からすると、あと三ヵ月…ぐらい」
「そっかぁ…意外と短いな。
いや…でもその程度なら、ダマせるか」
「…ウソップ!?」
まだ隠す気でいるのか!?
もう…そんな事言ってる場合じゃないのに…!!
「変にみんなに気を使われるのはゴメンだからなー」
「でも、だからって!」
「チョッパー、お前は何も気負う事はねぇよ。
ただ、治す方法を探してくれてりゃ、それでイイ」
「当たり前だ!絶対だ!!」
「あと三ヵ月。なら、俺の自由にさせてくれよ。
無事治ったら、ちゃんと本当の事を話して殴られでも何でもするからさ。
大丈夫、治るって。見つかるって。信じてるからな」
俺にはもう、何も言えなかった。
ドクター…ドクトリーヌ、こんな時俺はどうしたらいいんだ?
解らなくて、すごく辛くて、涙が出た。
そしたらウソップが、黙って俺の頭撫でてくれた。
解ってる、ウソップが一番辛いんだ。
俺がこんな事で泣き言言ってちゃダメなんだ。
ウソップを助けられるのは…俺しかいないんだから。
俺にできる精一杯の事を、やるよ。
俺は逃げないよ。
見てて、ドクター。ウソップは絶対に助けてみせるから。
この世に治らない病気なんて、ないんだから。
<続>
医者としての、それは、使命。
でもそれ以上に、大事な人を助けたいから。