<道標・策>
会議室には、ほぼ全員が揃っていた。
ほぼ、というのも、肝心の殿の姿が見当たらないのだ。
曹操だけではなく、当然といえば当然の事ながら夏侯惇の姿もない。
姿の見えない曹操を、夏侯惇が捜しに行ったのだ。
それから、孫権の姿もない。
まだ秘密となっている事もあり、彼は司馬懿の部屋で待機している。
「……何だか、夏侯惇殿は殿を捜してばかりいるな…」
そう呟いて嘆息すると、司馬懿は机上に地図を広げた。
「今、蜀軍はこの辺りにこう…布陣を構えているらしい」
魏の領内の端からすうっと指を走らせて、司馬懿は説明する。
「伝令からの情報に寄ると、兵の数は少なそうだ。
だが、気を抜くわけにもいかん」
「少人数か…お前ならどうするんだ?」
夏侯淵の問いに暫し眉を顰めて逡巡し、答える。
「私なら……少数に留めるなら、精鋭で固める」
「精鋭……ですか。
正直、誰が出てくるのか解らない所が痛いですねぇ…」
困ったように嘆息して、張コウが言葉を漏らす。
ああ見えて、蜀軍には強者が揃っている。
その中から更に、精鋭を選ぶとするならば。
「ただ、諸葛亮の事だ。
本当に大事な部分は手元に置いておくだろうな」
ぽつりと司馬懿が呟くのを聞きながら、徐晃が目を閉じて思案する。
そして。
「諸葛亮殿、関羽殿、趙雲殿、馬超殿、姜維殿に……魏延殿」
一人一人の名を確認するかのように、徐晃が言葉を紡いだ。
室内に居た人間の全てが、徐晃に注目する。
「……徐晃殿?」
「一体何人の将が来ているかは解りませぬが……
選ぶならまず、この者達でしょう」
うん、と一人納得するように頷いて徐晃が言う。
「恐らく諸葛亮殿か関羽殿のどちらかが、必ず居る筈です」
「根拠は?」
「無論、劉備殿自身が出てくるという可能性も有り得ます。
ですが、少数で固めているという部隊にそれはまず無いと見て良いでしょう。
そうなると……上に立つ者が必ず、居ますからな」
「他の者が大将を務めているという可能性は?」
「…………ありません」
どこか自信を持った目で、司馬懿の視線を真っ向から捕らえて徐晃は答えた。
「何故だ?」
「今、名を上げた中で他に大将を務め上げられる程の器を持った者は……居りませぬ」
「……やけに自信たっぷりですね」
張コウの感嘆を含めた言葉に、徐晃は苦笑を浮かべた。
「…………見てきましたからな、この目で」
「よっしゃ、それじゃ結論出そうぜ」
そう意気込んで口を開いたのは典韋。
許チョは会議が長引くといつも寝てしまう。
ちなみに、今も既にぐっすり夢の中だ。
「そうだな……では、少数には少数で当たろう。
一番怖いのは、それが陽動であった場合だ」
「陽動?」
「そうだ。この布陣自体は陽動で、戦力が割かれた時を狙って
本隊がこの居城を狙う。
一番単純な作戦だが、一番厄介だ」
「そうだなぁ……はいそうですかって戻ってこれる距離じゃ
ねぇしなぁ……」
「とはいえ、この布陣の方も疎かにしていれば、そこから崩れていく。
こちらの戦も、負けてはならんのだ」
「……難しいな、そりゃ」
「ああ、難しい」
典韋の言葉に素直に頷いて、司馬懿は腕を組んだ。
戦自体はそんな大したものではないはずだ。
問題は、どこをどう分けるべきか。
「…………張遼殿。」
「私ですか」
「ああ。それから……張コウ殿、徐晃殿」
「解りました」
「はい」
「私は3人と共に戦地に赴く。
殿も夏侯惇殿もこの場に居られないので、ここに待機。
拠って、典韋殿と許チョ殿も此処で殿のお守りを頼む。
妙才殿も、今回はこちらに待機だ。
できるだけ、この居城から戦力は割かない方向で行く」
「……なんでぇ、俺は留守番かよ。つまんねぇな」
「留守番だからとて、油断するな。
いつこっちも襲われるとも限らんからな」
「へーい…」
少し拗ねたような表情を見せて、夏侯淵が渋々ながらも頷く。
そこで、気が付いた。
「仲達よォ、アイツはどうするんだ……?」
匿うにしたって、その匿っている者が出陣してしまっては。
「……そうだな……」
ぽつりと呟き少し悩む素振りを見せて、机を一度、軽く叩いた。
全員が司馬懿に視線を向ける。
「皆、聞いて欲しい事がある」
<続>
戦〜vv 戦が書ける〜ヤッタ〜〜〜!!(煩い)
どうして徐晃の上げた名前に張飛が入っていないのかというと、
大前提に「劉備は来ていない」というのがあったからです。
その上で関羽か諸葛亮が出てくると考えるなら、もう片方と張飛は劉備の傍に居ると
考えた方が自然かな〜…と。
更に徐晃的には張飛も「上に立つ器ではない」部類なので、結果的に名前は消滅しました。
さて、実際は誰が来ているのでしょう〜〜かっ!?(クイズかよ…)
そして曹操は何処に行ってしまったんでしょうか。
別に伏線でも何でもないです。
……単に遊びに行っただけだし。(汗