< The saga that a heart is excited. −3− >










目の前に聳えるのは朽ちた古城。
閉じられた門にはツタが絡まり、もう何年もこの城の中に踏み込んだ者が
いない事を知らせている。
煉瓦造りの城壁は所々が崩れ、窓にはめ込まれていたであろう硝子がいくつも
割れ落ちている。
それを外壁の外から眺め、ポップは感嘆の声を漏らしていた。
「おお〜、なんか雰囲気あるなぁ」
「なるほど、確かに人ならぬ者がいてもおかしくはないな」
「こりゃあ面白くなってきた!
 早速探検してみっか!!」
虫の音しか聞こえない深夜、此処に立っているのは当然ながらポップとヒュンケルの
2人だけである。
剣の柄に手をかけたヒュンケルが門を指差してポップに問う。
「ツタを掃って門から入るか?」
「んな面倒臭ぇコトやってられっかよ。
 おら、手ぇ出しな」
しかめっ面をしてポップが答えると、ヒュンケルに向かって手を差し出す。
言われるままにそれを握るとポップが飛翔呪文を唱えて、ふわりと2人の体が
宙に浮いた。
これで外壁を乗り越えようという魂胆だろう。
「なるほど、魔法使いとは便利なものだな」
「だろ?いやぁ、オレって魔法使いで良かったな〜」
にんまりと笑顔を浮かべて壁の内側に降り立つと、ポップは手を離して周囲を
見回した。
あるのは入り口だろうと思われる大きな扉と、少し離れたところに通用口なのだろう
小さなドアがひとつ。
位置的には通用口の方が近い。
そこに近寄ってドアノブに手を伸ばすが、2,3度がちゃがちゃと捻った後に
お手上げだとポップは両手を上げた。
「ダメだ、鍵かかってら」
「開けられないのか?
 確か、そういう呪文があっただろう」
「あー……アバカムね。
 悪ィ、契約してねぇんだよその呪文は」
もともと鍵のかかっている場所に無理矢理侵入するという想定が無かったので、
あまり必要性を感じていなかったのだ。
今思えば、覚えておけば良かったかもしれない。
「なんならグランドクルスで…」
「お前さ、なんでそんな極端な発想するんだよ。
 つかドアこじ開けるのに必殺技なんていちいち使うな!温存しろ!!」
極端な発想という点ではポップにそんな事を言われる筋合いは無いと思ったが、
敢えてヒュンケルは黙っておいた。
何せ、魔法でツッコミを入れるならメラで良いところをわざわざメラゾーマを
打ってきたりするような奴だ、下手なことは言えない。
本来の出入り口なのだろう大きな扉も、一応確認してみたがやはり鍵がかかっていた。
「どうする?」
「うーん……ちょっと、ぐるっと一周回ってみるか」
言いながらポップは既に歩き出している。
他に方法も無いのでヒュンケルもそれに従って歩くと、ふと見上げた頭上に城よりも
背丈の高い塔のようなものが見えた。
どうやらそれは渡り廊下で城と繋がっているようだ。
「ポップ、あれはどうだ?」
「ん?
 あー……なるほどな」
ポップの肩に手をかけ呼び止めると、ヒュンケルの指差した先を見遣ってポップが
にやりと笑う。
物見台なのだろうその塔は外からも出入りができるように、側面に梯子が
つけられていた。
「行ってみるかな、ホラ、手ぇ出せよ」
「また飛ぶのか?」
「悪ィかよ」
「梯子があるのだから登れば良いだろう。
 お前こそ、少しは魔法力を温存しようとか思わんのか」
「…………。」
また飛翔呪文を使おうとしていたのは明白で、呆れたようにヒュンケルが言えば
少しムッとした様子で、しかし何も言い返せずポップがそっぽを向く。
「何かあった時にお前の魔法は頼りになるんだから、少しは大事にしろ」
「………わぁったよ」
渋々といった表情で頷くポップに苦笑を浮かべ、ヒュンケルは梯子に手をかけた。




















登りきって下を見ると結構な高さがある。
城よりも高い位置の塔からは、向こうに広がる森と更に向こうにある集落まで
一望できた。
「こりゃ絶景かな絶景かな、だ」
「おいポップ、此処から下に降りられるぞ。
 どうやら中に入れそうだ」
階下に繋がる階段を確認してヒュンケルが呼ぶと、ポップがそれに応じるかのように
今しがた入ってきた物見台から背を向けた。
その瞬間だ。



ガシャン!!



「え…っ?」
「なに!?」
まるでそこからの脱出を拒むかのように、ついさっきまでポップが立っていた場所に
鉄格子が落ちてきたのだ。
驚いてポップが駆けより鉄格子に手をかけるがビクともしない。
「ま、まじかよ……」
「閉じ込められた、というよりは……逃げ場を塞がれたみたいだな」
「後戻りは許しませんってか?」
「前へ進むしか許されていないのか」
「……へっ、随分ナメた真似してくれんじゃねぇか……」
一抹の不安を乗せた汗を頬に流しながらも、ポップは気丈に笑みを浮かべる。
「幽霊だろうが妖怪だろうが何だって出てくりゃあイイさ!!
 オレは誰の挑戦でも受けてやるぜコラァァァ!!」
「置いて行くぞ、ポップ」
「ちょ…ッ、お前、ノリ悪いなぁ……」
ヒュンケルにノリを求める方が間違いだろう。
スタスタと先に下りて行くヒュンケルの後を追って、ポップは慌てて階段へと
駆けて行った。
「うわ、暗ッ」
「灯りが……月明かりすら入って来んとはな」
「あ、ちょっと待てよ?」
階下は真っ暗闇で、部屋の広さどころか近くに居るはずのヒュンケルの姿すら
確認できない。
これでは探索どころではないと悟ったポップが、何やらブツブツと呪文を唱え出した。


「レミーラ」


翳した掌の上に淡い光球が浮かんで、僅かながらの視界を得る。
漸く身の回りのものが判別できる程度に明るさを得ると、前を歩いていたヒュンケルの
服の裾をポップが反対の手で掴んだ。
「おい待てヒュンケル、あんまり先に進むなよ。
 見失っちまうだろうが!」
「ああ……悪い。だが……」
「なんだ?どうしたよ」
立ち止まらせると、少し居心地が悪そうにヒュンケルが周囲へと視線を送る。
不思議に思って同じようにポップも辺りを見回すが、どうやら此処は書架のようで
あちこちに本棚が並び、見たことも無いような本がズラリと並ぶだけだ。
まさか本に囲まれるのが嫌というわけでも無いだろう。
「何かあんのか?」
「いや……ハッキリとした事は言えないが……、
 あまり此処には長居をしない方が良さそうだ」
「あん?」
「さっきの階段を下りた時から……オレ達以外の誰かの気配がする」
「え…」
ヒュンケルの言葉に眉根を寄せてポップが訝しむが、それ以上は何も話さず
とにかく先に進むためにヒュンケルは歩みを進めた。
自分とポップの更に後ろから、何かの気配。
だが、先程ポップを振り返った時には何の姿も確認できなかった。
幸いにも彼の魔法のおかげで周囲の様子は目で見える。
このまま真っ直ぐ歩けばドアがあって、この場所から出られるようだ。
もし鍵がかかっているのなら、今度こそドアを吹き飛ばしてでも此処から
出るつもりだった。
出口まであと10歩もないというところまで来た時、ふいにヒュンケルの周囲を
完全な闇が覆う。
視界を塞がれたのではない、ポップの魔法がかき消えたのだ。
「ポップ、どうし…」
「ぅわあァァァァッ!!」
「ポップ!?」
振り返るがやはりそこも闇で、一寸先も見えやしない。
だが、ヒュンケルの五感は感じ取っていた。
すぐ傍にあった筈のポップの気配が消えたのだ。
もうひとつの、何者かの気配と共に。
「……クソっ」
このままでは敵が現れたとて戦うことすらままならない。
小さく舌打ちを零すと、ヒュンケルは踵を返してこの先にあった筈のドアへと飛びついた。
やはりそこも、鍵がかかっている。
「ナメるなッ!!」
今度こそヒュンケルは腰の剣を抜いて体の前で構えると、全身に闘気を漲らせる。
出し惜しみなど、するつもりは無い。



十字に象られた闘気が、目の前のドアを打ち砕いた。










<続>



※お気づきの方も多いと思いますが、元ネタはDQ5のアレです。
 アレンジは加えるつもりですが、まぁほぼそういった流れになるかな?
 コイツらならどうするんだろうというコトを考えながら書くのが好きです。